埼玉新聞

 

縁再び…全盲の元保護者、保育園職員に 針きゅうマッサージで心身ケア「みんなうれしい仕組み」

  • 辻智歌子園長の肩をもむ安田章代さん=埼玉県川口市東川口

 川口市東川口のフォアマザー保育園で、全盲の針きゅうマッサージ師安田章代さん(47)が職員として迎えられ、コロナ禍で激務の保育士たちに針きゅうマッサージの治療をしている。保育園の福利厚生事業のため、保育士たちの負担はない。40分の施術で、希望すればはりもしてくれる。明るく気さくな安田さんに話を聞いてもらいながらマッサージをしてもらう。保育士たちからは「癒やされる」と好評だ。

■心の栄養

 JR武蔵野線の東川口駅の近く、小さな保育園の2階に安田さんが詰める「保健室」がある。針きゅうマッサージは火、水、金、土曜日に保育士たちがやって来る。 

 辻智歌子園長(68)は「保育士は子どもたちの世話をする一方で親たちの相談も受ける。大変疲れる。心身のケアをしたいと思っていた。その役目を安田さんが引き受けてくれた」という。「安田さんは全盲と言うハンディを負いながら、いつも明るくて元気。安田さんがそばにいてくれて、安田さんの元気な様子を見るだけで私たちの心の栄養になっている」とも加えた。

 安田さんは「距離感がなくて、いろんな話ができるので『気が楽になる』と保育士さんたちは言ってくれる。私は職に就けてうれしい。園長も保育士さんたちも、みんながうれしい仕組みだと思う」と話した。

■20年経ての縁

 同園は東川口周辺に大規模保育園を2園など計9施設を運営し保育士など従業員は130人もいる。「規模がだんだん大きくなって、障害者雇用法により障害者を雇用することになった。でも、どんな人が良いのか。いろいろ考えるうち、安田さんを思い出した」と園長。

 辻さんが第1号の保育園を東川口駅近くに開園したのは2000年7月。男子園児の母親が安田さんだった。

 「長男は盲目で生まれ、手術で見えるようになったが、特別な眼鏡が必要だった。そんな事情があったので、保育園がどこも預かってくれない。困っていた時に『いいわよ』と迎えてくれたのがフォアマザーの辻園長だった」と安田さん。

 その長男広大(ひろき)さん(19)は来年成人式だ。今、眼鏡をかけた視力は1・0。大学2年生で管理栄養士を目指している。

「4月の保育園入園式に私は職員として出席したんですよ。20年前に私は母親として出ていた。思い出して感慨深かった」と安田さんは振り返った。

 辻さんは、小規模の保育園が協力して安田さんのような人を雇う仕組みを考えると、保育士の働く環境はもっと良くなると思う」と次への思いを語る。

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