埼玉新聞

 

埼玉の幻の名所「巌窟ホテル」、現在は立ち入り禁止 一時は観光地に 42年前の姿、写真家がまとめる

  • 巌窟ホテルの内部。岩壁に囲まれた部屋がある。写真集「巌窟ホテル」より

  • 往時の巌窟ホテルの外観。写真集「巌窟ホテル」より

 熊谷市本石在住の写真家、新井英範さん(73)は、人工洞窟「巌窟(がんくつ)ホテル」(吉見町)を42年前に撮影した写真の写真集を自費出版した。巌窟ホテルは高橋峯吉という地元の農民が人力で岩壁を掘った人工の洞窟で、内部には洋風建築のような部屋がある。現在は荒廃が進んで見る影もなく、敷地内に立ち入ることすらできない。“幻の名所”の往時の姿を写した貴重な写真集だ。

 巌窟ホテルは吉見百穴の近くの切り立った岩肌を、高橋峯吉という地元の農民がのみなどを使って掘った。1904(明治37)年に着手し、死を迎えるまでの21年間をほとんどを費やした。「巌窟ホテル高壮館」と名が付いているが、ホテルとして使われたことはない。

 内部には大広間や通路、科学実験室などがあり、階段を上って2階に上がることができた。岩を削り出した花瓶台なども。当初は3階まで作る構想だったという。 峯吉の死後、2代目の泰次が引き継いだが、岩壁が崩れやすい凝灰岩質のため、保守・管理が中心だった。一時は観光地になったが、今では立ち入り禁止になっている。

 新井さんは29歳の時、幼なじみの唐崎計画設計工房の唐崎哲志さん(73)から「吉見百穴のそばに、私的なスナップ写真を除き、撮っている人がいない面白いものがある」と誘われて、巌窟ホテルを撮影した。作品は新井さんのデビュー作となり、ジャパンタイムス国際版でも紹介されるなど評判を呼んだ。

 これまで巌窟ホテルの写真展を開いたことはあったが、写真集を出版するのは初めて。岩壁に囲まれた内部の広間や通路、洋風建築のような塗装がされた外観など41カットの白黒写真を収録。唐崎さんが同時期に巌窟ホテルを実測して作図した図面も掲載している。

 新井さんは後書きで「(現在は)周囲は草木に覆われ、峯吉の夢の館は跡形もなくなっていた。(中略)この写真集が巌窟ホテルの往年の姿を永遠に伝えてくれることを願う」と記している。

 限定300部出版。定価8800円(税込み)。

 問い合わせは、新井英範スタジオ(電話048・526・3474)へ。

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