埼玉新聞

 

延期や無観客…コロナ禍乗り越え、幕上がる最終章 埼玉・東松山、プロと市民ら作る音楽劇「やっとできる」

  • 音楽劇「枇杷の家」の稽古の様子。中高年女性3人が、庭にビワの木がある一軒家を借りて共同生活をする物語=11日、東松山市内

 公益財団法人「東松山文化まちづくり公社」(東松山市)が主催する音楽劇「枇杷の家」が20、21日に同市民文化センターホールで開かれる。公募した戯曲を、1年目に朗読劇、2年目は演劇、3年目音楽劇として上演する2018年度から始まったプロジェクト。プロの演劇関係者とともに、公募で集まった市民や近隣住民が出演者や裏方として舞台を作るのが特徴だ。新型コロナウイルス禍による延期や無観客公演を乗り越え、最終章の幕が上がる。

 「結婚式に参列するたびに次は『私の番』と、電車待つみたいに待ってたんですけど、気付いたら更年期」「そんなに何もなくてよく文章書いたりできるものね」。11日、東松山市民文化センターで行われた稽古。鶴ケ島市在住の佐藤静子さん演じる58歳で独身のライター月子と、未亡人・風子(斎藤定子さん)のあけすけなやりとりに笑みがこぼれる。

 「枇杷の家」(作・緑川有)は、一軒家で共同生活する中高年女性3人が主人公で、新しい家族の姿を描く作品。音楽劇には、俳優4人に加え、同市などに住む7歳~76歳の市民ダンサーズ18人が出演。演出を手掛けるのは、読売演劇大賞優秀演出家賞受賞の演出家・瀬戸山美咲さん(44)。3人の会話を中心に、歌、ジャズバンドの生演奏、ダンスで構成される音楽劇だ。

 同公社の石田義明理事長(当時)が「舞台をつくることでまちの人のつながりを深くしたい」と発案したのがきっかけ。彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市)に演劇制作のノウハウを学び、2019年3月、朗読劇「枇杷の家」を実施。滑りだしは順調だったが、第2弾の演劇は、「第1波」の直撃を受けた20年3月、無観客での上演を余儀なくされた。音楽劇は21年3月の予定だったが、新型コロナの影響で2度も延期した。

 「やっとできるんだ、という感じ」と話すのは瀬戸山さん。演出の仕事だけでなく、感染対策と市民参加の両立に悩んだという。本当は舞台に立ってほしかった地元合唱団は録音した歌声による“出演”に変更。さらに茶わんなどの小道具を住民に借りたりと工夫した。瀬戸山さんは「いろいろな市民に助けられた。改めて演劇は人と人がつながる手段だと思った」と語る。

 市民ダンサーズとして出演する山口遥海(よみ)オルガさん(18)=東松山市=は「高齢者や小学生もいて、いろんな世代と一緒に踊れるのが楽しい。このあったかい雰囲気を舞台で出したい」と意気込む。同市に実家がある銀次郎役の俳優・本井博之さん(47)は、「やきとり」や都幾川など東松山愛あふれるせりふに注目してほしいといい、「東松山の魅力を伝えたい」と話した。

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 同劇では、耳や目の不自由な人向けに観劇サポートを実施する。舞台で手話通訳を行い、聴覚障害のある人には台本の貸し出しを行う。視覚障害のある人にはライブ音声ガイドが流れる機器を無料で貸し出す。チケット問い合わせは、同市民文化センター(電話0493・24・2011)へ。

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