埼玉新聞

 

好きな女の子にもらったチョコ、硬くてもおいしい理由 パレスホテル大宮の総料理長「おいしさ」の正体語る

  • 生徒代表から花束を贈られた毛塚智之さん(中央)=1日、川口市立西中学校

  • パレスホテル大宮=さいたま市大宮区桜木町

 川口市宮町の市立西中学校(三浦伸之校長、生徒数583人)で1日、さいたま市のパレスホテル大宮の総料理長毛塚智之さん(53)が給食メニューを提供、同時に今月卒業する3年生に向けて講演した。毛塚さんは「本物とそうでないものと、判断できる力を持とう。自分が不器用だと思ったら、それを長所に、自分の持ち味にすればいい。そして、自分の夢を持って、かなえてほしい」と励ました。

■物語がある

 毛塚さんは2階の視聴覚室からオンラインで同校の3年生213人に語り掛けた。この日、同じ給食を食べたほかの中学校13校の3年生約2300人にもオンラインで届いた。

 毛塚さんは「食べることは楽しいこと。これを知ってほしい」と切り出した。「おいしいから楽しいのではなくて、楽しいからおいしいのです」。

 「好きな女の子にもらったチョコレートは硬くてもおいしい。食事には物語がある。わくわくしながら食べるとおいしい。今日の給食も1人前は278円でいつもと何も変わらない。でも今日は、何が違うか。シェフが考えた特別な料理。これが物語です」。

 「食べるときは、甘い、しょっぱい、酸っぱい、にがい、うまみという五つの味を感じて、視覚や嗅覚など五感を使い、食事を感じてほしい」と話した。

 毛塚さんがこの日提供したメニューは旬の野菜が主役。春キャベツ・ジャガイモ・ソーセージのスープ、サバのフリットカレー風味、彩り野菜のチャウダーソースがけ、小松菜の洋風ナムル仕立てーの3品にご飯と牛乳。

 生徒たちの感想はー。シェフになりたいという山口景悠さんは「スパイシーだった」。池浦小夏さんは「色合いや味も、今日はいつもと違う感じ」。佐々木春樹さんは「一つ一つかみしめて、おいしかった」。

■最高の食卓

 「大宮パレスホテルで35年間、毎日、フランス料理を作ってきた」という毛塚さん。「これまで出会ったなかで最高の食卓」について、講演後に語った。それは10年ほど前に、肢体不自由の子らが通うさいたま市のさくら草特別支援学校でのことだった。

 「私たちが作った料理をじっと見ている子どもがいた。見つめたまま涙を流す子もいた。自分で食べることができないベッドに寝たまま見つめていた」。

 食べないでも見るだけで感じている子らの姿が、毛塚さんの心に響いた。「最高の食卓でした」。その後、毛塚さんが同校に通うボランティアは、このコロナ禍の2020年に中断するまで7年間続いたという。

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