埼玉新聞

 

減った利用客、徐々に戻るも…感染恐れ乗務員が退職、配車できず タクシー業界、コロナ禍で厳しい状況続く

  • 女性乗務員を増やしたいと働き方改革を進める事業者。乗合タクシーの乗務員片柳京子さん(左)は「高齢者から感謝されうれしい」と仕事にやりがいを感じている

 新型コロナの影響で、タクシー業界が厳しい環境に置かれている。感染拡大により収入が激減したり、感染が収まり需要の増加が見込まれそうになっても乗務員が不足したり、と事態に追われている。職場環境を改善したりIT化を進めているが、第6波の懸念が漂う。業界の現状を取材した。

■客が蒸発したかのよう

 さいたま市中央区に本社がある平和自動車。コロナ禍で利用客が激減したが、それでも昨年は緊急事態宣言明けから年末にかけて、タクシーの利用が徐々に増えてきたという。

 同社の舘沢心則経営統括本部長は「ひどいときはお客さんが蒸発したかのようだった。ようやく利用が増えてきて、日中も買い物や病院に行くためタクシーを使うケースが増え、夜の客も増えている」と話す。

 タクシー事業者で構成する県乗用自動車協会(さいたま市浦和区)によると、県内では新型コロナの感染拡大で2020年春の運送収入が同年1月の4割弱に激減した。昨年に入り徐々に持ち直しているものの、依然厳しい状況にある。

■感染恐れ高齢者退職

 昨年の第5波収束あたりから、需要は増えてきたものの、今度は乗務員が恒常的に不足しているという。コロナで収入が減る中、事業者は雇用調整助成金などを活用し、乗務員の雇用維持を図ってきた。しかし収入が減ったり、感染リスクを踏まえ高齢ドライバーが辞めるなどして乗務員が減った。

 利用客は増えているが、乗務員が減り、依頼の電話を受けても配車できないケースもしばしば。舘沢本部長は「乗務員が減り、車が空いている。お客さんからの電話で“何社かけても駄目だった”という声が多い。業界全体が同じような状況」と嘆く。

 経営環境が悪化する中、支援に乗り出す自治体も。観光客が減った川越市は昨年、市内のタクシー事業者に支援金を交付。他の自治体も支援策を打ち出している。

 とはいえ、支援は地域によってさまざま。同協会の高原昭専務理事は「自治体によって支援に温度差がある。タクシー事業は生活を支えるエッセンシャルサービス。事業を継続するため、自治体による支援を働き掛けたい」としている。

■職場改善、IT化

 人手不足が深刻化する中、事業者は雇用環境の改善やITの活用などの改革に力を入れる。

 タクシー運転者は1日当たり、拘束時間が13時間以内(上限16時間)、休息は8時間以上を取らなければならない。

 平和自動車は夜間を含む3労働日と3休日計6日でローテーションを組む。これまで複数の仕事を経験したという乗務員の明瀬義則さん(56)は、1日の業務は長いが月の半分が休みになる労働環境について、「この仕事は自由が利くからいい。接客が好きだし、私には合っている」とタクシーに乗り込んだ。

 片柳京子さん(57)は家庭と仕事を両立。平日定時で終わる乗り合いタクシーの乗務員として勤務している。「お客さんとしゃべるのが好き。特に高齢者に喜んでもらえる。女性ドライバーは安心してもらえる」と笑顔を見せた。

 コロナ下の業界では改革も進んでいる。持続可能な社会に向け、誰でも使いやすいユニバーサルデザインや環境に優しいハイブリッドタイプの「ジャパンタクシー」の導入が進む。ITの活用も必須。配車アプリを活用し、効率的に利用者の情報を把握する乗務員が増えているという。

 同協会の高原専務理事は「各事業者が労働環境の改善に取り組んでいる。環境問題への取り組み、妊婦や育児利用の支援、コロナ禍でのデリバリーなど、地域公共交通機関としてタクシーへのニーズは高い。タクシー業界が進化していかなければ」と話す。

 ただ年末年始にかけて、新たな変異株オミクロン株や感染者の急増が新たな懸念となっている。高原専務理事は「ようやく前年並みに戻ってきたが、まだコロナ前ほどではない。しかもオミクロン株が増え、第6波を危惧している」と懸念を口にした。

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