埼玉新聞

 

あおりハンドルで…中2の息子死亡、言葉にならない母 壮絶な痛み 足元に置かれた息子の靴、その意味は

  • メッセンジャーの黒崎涼太さんのパネルの隣で、「一人でも多くの方に事故被害者からのメッセージを受け取ってほしい」と話す堀越支所長

 ドライバーにハンドルを握る責任と交通事故で失われた命の尊さを考えてもらおうと、独立行政法人自動車事故対策機構埼玉支所(さいたま市浦和区、堀越千秋支所長)は、NPO法人いのちのミュージアム(東京都日野市、鈴木共子代表理事)と交通事故被害者にスポットを当てたコラボ企画「生命(いのち)のメッセージ展」を6日まで支所内で開催している。堀越支所長は「いつ自分が加害者になるか、被害者になるか分からない。誰もが不幸になる交通事故を減らし、ドライバーの安全運転意識が高まるきっかけになれば」と話している。

 生命のメッセージ展は犯罪や事故、医療過誤やアルコール飲料の一気飲ませなどによって、理不尽に命を奪われた犠牲者を中心にしたアート展。現在、全国149人の被害者家族で構成されるいのちのミュージアムが産官学民と協力して全国各地で巡回展を行っている。埼玉支所での展示は1回目。

 展示のメインは「メッセンジャー」と呼ばれる犠牲者の等身大の人型パネル。1枚ずつ、一人一人の顔写真が貼られ、本人の素顔や残された家族のメッセージなどとともに、足元には「生きた証し」である靴が置かれている。

 自身も長男を交通事故で亡くし、NPO法人の代表を務める鈴木さんは「“未来を生きる”すべての人に命の大切さ、家族の悲しみを知ってほしい。一人でも多くの人がメッセンジャーに出会い、人生を全うしたかったという本人の思いを受け止めてほしい」と呼び掛けた。

 メッセンジャーの一人として命の尊さを伝えている、黒崎涼太さんの母陽子さん(群馬県在住)は「(事故に遭わなければ)来年の1月にはみんなと一緒に成人式を迎えていた。先輩や後輩、友人や先生、家族に囲まれて一生懸命に生きていた」と話す。2015年7月、当時13歳で中学2年だった涼太さんは部活に向かう途中、青信号の自転車横断帯を渡っていた際、ハンドルを一度反対側に切ってから曲がる「あおりハンドル」の大型トラックにはねられた。

 陽子さんは「生きている最期に、一人で、想像を絶する痛みと孤独な思いをしたと思うと言葉にならない。大切な古里で大切な命が奪われている。心を持ってつながること、そして交通システムや技術の問題にも目を向ける必要がある。全ての人に自分の命と隣にある命を大切にしてほしい」と訴えた。

 堀越支所長は「当機構では自動車事故の被害者を『支える』、自動車事故を『防ぐ』、自動車事故から『守る』の三つの業務を一体的に実施している。展示会を通じて一つでも悲惨な事故が減ることを願いたい」と話している。

 展示は午前8時半~午後5時(最終日は午後4時)、入場無料。3日は休業。問い合わせは、同支所(電話048・824・1945)へ。

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