この秋に得た無形の力がボールに乗り移っているように見えた。9月24日、プロ入り初勝利を挙げ、その後も安定したピッチングを続けていた田村伊知郎だが、特にこの成長を感じられた一戦が13日、札幌ドームでの日本ハム戦だった。

　田村がマウンドに上がったのは八回。チームは2―10と敗戦濃厚だったが、先頭の杉谷を内角低めに落ちるチェンジアップで空振り三振、続く高浜は直球で押し込み中飛、さらに王に対しては直球2球で追い込み、最後はカットボールを外角ギリギリに投げ込んで見逃し三振に仕留めた。この日の最速は151キロ。一球一球に意味があった実りある11球は、特にこの2年の成長を感じさせるものだった。

　13日、チームが敗戦しただけに控えめな表情の田村だったが、ベンチ裏では確かな手応えを感じているように見えた。だからこそ20日の本拠地最終戦、2点リードの緊迫した場面で初セーブを挙げたのも、今の田村の力からして必然だったのかもしれない。

　「2点リードで最終回というしびれる場面でしたが、いつも通りを心掛けてマウンドに上がりました」と冷静に振り返りながらも、「今年ファームで調整していた時期にクローザーを任せていただいたので、その時のことを思い出しながら投げました」と、不調でファーム生活が続いた時期が今を支えていることを強調した。

　20日はスタンドで妻が見守る中でのプロ入り初セーブ。試合後は「初セーブを挙げることができ、何とも言えない気持ちです。うれしいです」と素直な気持ちを口にした。

　本拠地最後の試合で再びお立ち台でスポットライトを浴びた田村。自信を深めていく優しき男の直球はこの先、一段と重くなって相手打者のバットを詰まらせる。

　（埼玉西武ライオンズ広報部）