埼玉新聞

 

<月曜放談>ところざわサクラタウン開業1年 地元と共生、広がる変革 KADOKAWA会長・角川氏寄稿

  • 角川歴彦氏

 KADOKAWAが運営する複合施設「ところざわサクラタウン」が、所沢市にグランドオープンして11月で1周年を迎える。コロナ禍で県境を越える移動が抑制され、来場者の7割は地元やその周辺の方々。サクラタウンは地元と共生していかなければならないと考えていたから、その初心を確認した1年でもあった。

 サクラタウンにある角川武蔵野ミュージアムは美術館、図書館、博物館が一体となった芸術文化センターだ。例えば文学から起こった自然主義運動が美術や音楽にも影響を与えたように、一潮流が多分野に変革をもたらすことが世界中で常に起こっている。それは図書館や美術館が単体で受け止めきれるものではない。角川武蔵野ミュージアムでは、三位一体の展示を行うことでその可能性を広げている。

 現在は歌人の俵万智さんの本格的個展を開催している。短歌は古くから文語で表現されてきたが、俵さんは「サラダ記念日」以来、口語で挑戦してきた革命児。当初は「人気先行だ」と見る向きもあったが、今年短歌界の最高峰の迢空賞を受賞し、歌壇に認められたかたちとなった。

 展示では空間デザイナーを動員し、来場者が立ち止まって一首一首鑑賞する仕組みをつくった。家型オブジェの窓をのぞくと、俵さんが住んでいた石垣島の海が眼前に広がってきて、彼女の歌の背景が伝わってくる。こうした新しい試みは来場者の感動を呼んでいるが、これも三位一体の展覧会を目指してきた成果だ。

 「コロナ時代のアマビエ」をテーマに会田誠さん、鴻池朋子さんら6人の芸術家が自由な発想で表現するプロジェクトでは、これまで5人が作品を創作し、展示してきた。芸術家たちは、コロナ禍で何ができるか自らに問いかけ、その答えとして市民や社会に代わって対峙(たいじ)してくれたのではないだろうか。

 前回の本欄でも触れた「武蔵野回廊芸術祭」は、2023年開催を目指している。これは、埼玉県と東京都西部に住む約1千万人を対象にした市民アート革命だと思っている。もちろん芸術家たちの表現の場であることには間違いないが、「市民による市民のための文化芸術」でなければならない。

 19年から荒俣宏さんが地元の子供たちに創作妖怪へと導く妖怪教室を開いている。面白い妖怪画が沢山集まっているが、こうしたものが大事。また、アマビエプロジェクトに参加している芸術家が芸術祭の先頭に立ってくれるとありがたい。23年にはできる限りのことを進化させていきたいと考えている。

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