埼玉新聞

 

<もっとさいたまにスポーツを4>ブロンコス再生、根幹は「変える力」 選手にあり旧経営陣になかったもの

  • 池田純氏

 ゴールデンウイークは仕事を入れずに自宅で過ごした。本当はウェブ会議が立て込みそうだったのだが、やはり世間と同じ気持ちを味わわないと分からないことがある。

 とはいえ、埼玉ブロンコス再生の仕事は片時も頭を離れない。私の中で6月いっぱいは旧ブロンコス、7月からが完全新規のブロンコス。新生チームはスタッフも会社名も全て変える。残すのはブロンコスというチーム名だけだ。

 新たなクラブコンセプトの根幹は「変える力」。新型コロナウイルスが終息したら世の中は大きく変わる。その時代を担うネクストジェネレーション(次世代)のためにコロナ禍を生き抜き、彼らの考え方や生き方の支えになるようなクラブとチームを作る。当初の3年間は勝ち負けや営利はどうでもいい。ネクストジェネレーションのみんなと一緒に成長していきたい。

 ブロンコスの選手全員との面談が終わった。アスリートとして晩年を迎えた選手も多いが、今まで生き残ってきただけに様々な経験を積み、人間対人間の話ができると感じた。選手からは「バスケ文化を広げる取り組みを」「もっとスポンサー回りをすべき」と言われた。地域と一緒に経営を盛り上げないとクラブは生き残れないという意識が、選手たちにはある。旧経営陣にはそれが欠落していた。

 業界で実績のある大先輩がヘッドコーチやGMをやるのはバスケ界も同じだが、ブロンコスは選手の中からコーチを選ばせてみたい。これからのリーダーに必要なのは「変える力」。その能力を持つのは誰か、選手に評価させる。今季のチームはヘッドコーチがいない期間があったが、実はその時が最も勝っていた。選手たちで練習方法や戦い方を考えていたそうだ。

 甲子園の大舞台で高校球児が自分たちで考えてプレーしたら、教育としてどんなに素晴らしいだろう。技術や戦術は監督やコーチが教えるが、いざ本番は「自分たちで戦ってこい」と。高校野球から日本を背負うようなリーダーが現れるのではないか。

 今の日本は挑戦や改革からほど遠く、保身や忖度、隠ぺい、きれい事、お友達に甘い汁を吸わせるようなおかしなことがまかり通っている。本物のリーダーは出る杭として体制側に否定され追いやられる。日本人は豊かになり、本質よりも表面的な協調性が重視され、明治維新のころのような強いリーダーシップを忘れ、本当に「変える」ことが下手になってしまったように思えてならない。

 次代を担うみんなには豊かで平和な時代の日本とは全く違う生き方、考え方が求められる。日本が新時代を切り開くため、ネクストジェネレーションにこうあってほしいという「強い日本人」の姿をスポーツを通して伝えたい。それには古い体質から脱し、ブロンコスを完全に生まれ変わらせなくてはならない。7月までもう少し時間がある。希望の星になるため、今は人知れず、うみにまみれるつらい時期だ。

■池田純(いけだ・じゅん)

 1976年横浜市生まれ。早大卒。住友商事、博報堂を経て2011年12月、横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任、観客動員数、売り上げ拡大に実績を挙げた。16年10月の退任後はスポーツ庁参与などを歴任し、19年3月から現職。

ツイート シェア シェア