「頼むな」―。小澤征爾さんが情熱託した室内楽アカデミー 死去から2年、響きに息づくスピリット
2024年に亡くなった指揮者、小澤征爾さんが情熱を注いだ「小澤国際室内楽アカデミー奥志賀」が7月、開講された。体調を崩した晩年、信頼を寄せる仲間に「頼むな」と思いを託した弦楽器奏者育成プロジェクトだ。受講生たちが成果を披露する東京公演では、小澤スピリットを感じさせる生気に満ちた響きに聴衆が聴き入った。
1996年に始まった勉強会から発展したアカデミーは「弦楽四重奏は弦楽奏者の全ての基本」という小澤さんの理念のもと、毎夏、実施されてきた。今夏は日本や韓国、台湾出身の17~30歳の演奏家24人が、「最寄りのコンビニまで車で40分」の長野県・奥志賀高原で10日間合宿し、小澤さんと長年、共に指導にあたったチェロの原田禎夫やビオラの川本嘉子、バイオリンのジュリアン・ズルマンの下で演奏を磨いた。
公演前半は6組がそれぞれ取り組んだ弦楽四重奏曲を抜粋で披露。緊張感みなぎるバルトークや親密な語らいのようなモーツァルト、エキゾチックな香りが立ち上るラヴェルなど作品に真摯に向き合ったことが伝わる演奏を繰り広げた。
後半、ズルマンとコントラバス奏者が加わった受講生全員によるドボルザークの弦楽セレナーデは、みずみずしい響きが広がった。音に宿る活力は、それぞれが自分の音楽を表現し、互いに「聴き合う」ことで高みを目指すアカデミーの真骨頂だ。快活で優雅なワルツも温かな情感をたたえた場面も一体感を失わず、晴れやかに演奏を終えると会場は大きな拍手に包まれた。
これまで国内外で活躍する音楽家を育んできたアカデミー。2010年から11回参加し、現在は京都市交響楽団のソロコンサートマスターと札幌交響楽団のコンサートマスターを務めるバイオリンの会田莉凡は、18年のアカデミーでベートーベンの弦楽四重奏曲第16番第3楽章(室内合奏版)を指揮した小澤さんが「おれの皮膚みたいだな」とつぶやいたことが忘れられないという。
「小澤先生がやりたい音楽を私たちができているんだと思った。体の一部みたいに感じるよと伝えられたようで、自信になった。小澤先生の音楽に対する気持ちの強さ、アカデミーで教わったことはずっと自分の中に“血”として流れていると感じます」
「小澤さんは最後までアカデミーを気に掛けていた。やらないわけにはいかない」と原田。亡くなって3度目の夏、受講希望者は昨年を上回り、77人だったという。「姿はなくても小澤さんの情熱やオーラは息づいていて、伝統を引き継いでいる。感じ取る若い音楽家のパワーはすごい」と目を細めた。














