埼玉新聞

 

デマ…警察署へ逃げた青年、自警団が引きずり出し殺害 朝鮮人犠牲の関東大震災100年、日本人に敬意の理由

  • 具学永さんの墓で説明する金鐘洙さん=寄居町の正樹院

    具学永さんの墓で説明する金鐘洙さん=寄居町の正樹院

  • 具学永さんの墓で説明する金鐘洙さん=寄居町の正樹院

 今年は、1923年9月の関東大震災から100年。当時、寄居で殺害された朝鮮人青年、具学永(ク・ハギョン)さんを描いた絵本「飴売り具学永」の作者で韓国人牧師の金鐘洙(キム・ジョンス)さん(59)らが、具さんの墓がある同町寄居の正樹院を訪問し、埼玉県内関係者と交流した。金さんは「在日朝鮮人の悲劇に、日本の人たちが真摯(しんし)に向き合ってきたから歴史が残っている。敬意を評したい」と、墓前に手を合わせた。

 絵本は2021年3月、韓国で出版。昨年4月に日本語訳された。今年はドイツ語と英語版も刊行される。関東大震災では「朝鮮人が火を付けた」「井戸に毒を入れている」とデマが飛び交い、大勢の朝鮮人が殺害された。具さんは寄居署に避難したが、自警団に引きずり出され、殺されたという事実を物語にしている。

 殺害された人数や名前などは特定されていないが、飴を売って生活していた具さんの遺体は、あん摩師の宮沢菊次郎さんが引き取り、正樹院に埋葬。残されている墓石には、具さんの戒名や亡くなった日にち、施主の菊次郎さんの名前などが彫られている。

 交流会には、金さんが参考にした「大正の朝鮮人虐殺事件」の著者・故北沢文武さんの妻澄子さんも参加した。「主人は読みやすく、中学生や高校生にも読んでもらえるようなものを書きたいと常に思っていた」と説明。「実際のことを確かめられるものでなければ書かなかった」と話した。

 絵本で悲惨な事実を知った県立秩父農工科学高校2年生、秋池柚さん(17)も訪れ、100年前の寄居町にタイムスリップした女子高生が登場する朗読劇の脚本を製作したことを報告した。内容の説明を聞いた金さんは「具学永と菊次郎の2人の友情を描いた朗読劇をやることに感動した」とうれしそうだった。
 

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