埼玉新聞

 

「私は一人じゃない」…新年祝う踊りの輪 願う故郷の安寧と自由 さいたまの公園でクルド人が祭り

  • 音楽に合わせて踊りながらネウロズを祝うクルド人たち=21日午後、埼玉県さいたま市桜区の秋ケ瀬公園

 埼玉県南部を中心に約2千人が暮らしているとされ「国を持たない最大の民族」とも呼ばれている中東山岳地帯の先住民、クルド人。さいたま市桜区の秋ケ瀬公園で21日、民族の新年を祝う祭りが4年ぶりに行われた。故郷のトルコ南東部で2月に発生した地震や在留資格に関わる入管難民法の改正など、一人一人が複雑な思いを抱えながら笑顔で手を取り合い、新たな1年を迎えた喜びを分かち合った。

 「ネウロズピローズベ!」(新年おめでとう!)。同日午後1時ごろ、公園で行われていた祭りは最高潮を迎えた。色鮮やかな民族衣装やスピーカーから流れるリズミカルな音楽、スパイスの香り―。事前に申し合わせたわけではないが、約千人が集まった。大勢の人たちが隣り合わせた人と「指切り」のような形で小指を結んで踊り、気が付くと大きな輪が出来上がっていた。

 日本で春分の日の21日はクルドの新年に当たり、祭りはクルド語で「新しい日」を指す「ネウロズ」と呼ばれている。運営団体の一つである「在日クルド人と共に」(蕨市)によると、県内では遅くとも2004年以降、場所を変えながら開催されるようになり、県外からも多くのクルド人が訪れるという。新型コロナウイルスの影響で4年ぶりに行われた伝統行事は、日本で暮らす彼らにとって例年以上に特別な意味を持つ。

 川口市に住むクルド人女性のグリスタンさん(18)=仮名=も心待ちにしていた1人だ。この日のためにクルドの伝統的な民族衣装を親族が住むトルコから取り寄せた。赤く光沢のある柔らかい生地で、ゆったりとした長い袖には刺しゅうとスパンコールが施されており、踊ると太陽に反射して輝く。

 「ネウロズでみんなと踊って、私は一人じゃないと強く思った」。埼玉で自由と解放を願った踊りは、夕暮れ迫るまで長く続いた。

■クルド人

 公用語はクルド語。居住地域は、第1次世界大戦後に現在のトルコやイラン、イラク、シリアなどに分裂し、少数民族として差別や迫害を受け各国に逃れたが、日本国内では難民として認められたケースはほとんどない。県内の川口市や蕨市などで暮らす大半が在留資格がなく、一時的に出入国在留管理庁での収容を解かれた「仮放免」状態。

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