埼玉新聞

 

<高校野球>入院勧められた川越総合の主将、直談判で医師から出場許可 仲間と最後の夏、母と固い握手

  • 試合後の整列で相手の健闘をたたえ、笑顔で引き揚げる川越総合の鈴木志己主将(中央)=18日午後、熊谷公園球場

 (埼玉大会=18日・熊谷公園)

 「この試合だけは出させてください」―。18日に熊谷公園球場で行われた川越総合―山村国際の3回戦。川越総合3年で主将を務める鈴木志己(のぞみ)遊撃手(17)は、16日に潰瘍性大腸炎の診断を受けた。満足に食事もできない逆境の中、仲間との夏を戦い抜いた。

 鈴木選手が異常を感じたのは5月下旬ごろ。血便が出るようになり、6月に入って病院で大腸炎の疑いがあると診断された。初戦となった13日の2回戦をコールド勝ちで突破した直後、16日に出た検査結果を受けて医師からは即入院を勧められた。

 無情な宣告にも、頭をよぎったのは闘病の不安よりも仲間たちの顔。「18日の試合だけは出たい」と医師に直談判し、2日間をリミットに許可を得た。「腸の状態がよくないことは素人が見ても分かるほどの検査結果だったが、本人の意志が強かった」と母・範子さん。

 固形物を摂取するのは難しい状態で、試合中も水溶性の栄養剤を飲む鈴木選手の姿があった。

 試合は0―6で敗戦したものの、川越総合打線は九回に1死一、三塁の好機を演出。惜しくも後続が二ゴロ併殺に倒れ、鈴木選手の夏は次打者席で幕を閉じた。

 荒木監督は「優しい子。最初は頼りなかったが、行動で示す姿にこんなに強い男なんだと感じた。彼のひた向きさがチームを変えた」とチームをけん引した主将に感謝する。

 吹奏楽部や保護者へのあいさつを終えた鈴木選手は「今夜から入院です。わがままな自分についてきてくれた1、2年生には感謝しないといけない」と穏やかに笑う。1カ月はかかるという入院生活も「焦らないで、時間をかけて直したい」とうなずく。

 範子さんは「グラウンドが一番似合っている」と愛息子の健闘をたたえ、「頑張ったね」と実感を込める。病気と戦いながら白球を追い掛けた夏。母と息子が固い握手を交わした。

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