埼玉新聞

 

守れ“足袋蔵”のまち 足袋産業が盛んだった埼玉・行田 歴史的建築物を活用して保存へ ビール醸造所が夏ごろにオープン予定

  • 補助金を使って改修した「小川源右衛門蔵」で新たな事業を始めた本多淳さん(右)と明子さん=行田市行田

    補助金を使って改修した「小川源右衛門蔵」で新たな事業を始めた本多淳さん(右)と明子さん=行田市行田

  • 【地図】行田市(背景薄緑)

    行田市の位置

  • 補助金を使って改修した「小川源右衛門蔵」で新たな事業を始めた本多淳さん(右)と明子さん=行田市行田
  • 【地図】行田市(背景薄緑)

 昭和初期の1938~39年、行田市は全国で生産される足袋の約8割を製造し、日本一の産地となった。足袋産業の隆盛に伴い、江戸時代後期から昭和30年代前半までの100年余りにわたり、市内の足袋商店は製品の保管庫として「足袋蔵」を建設。趣ある景観が形成された。だが業界は衰退し、老朽化した足袋蔵などの歴史的建築物は減っている。市は活用を通じて保存しようと、改修を促す補助金を創設。工事を終えた蔵で1月、新事業が始まった。

■ダンス講師が起業

 リニューアルしたのは、行田市行田の「小川源右衛門蔵」。32(昭和7)年に完成した石造り2階建ての蔵で、通りの向かいにある酒店が所有している。倉庫だったが傷みが激しく、取り壊しも検討されていたという。だが、2019年に市内へ転居したダンス講師の本多淳さん(46)、明子さん夫妻が独立起業の場所に選んだ。淳さんは「歴史ある建物が、これほど多いまちとは知らなかった。ここで教室を開けたら、と思ったのがきっかけ」と振り返る。

 2人は「行田市ふるさとづくり事業」に応募。建物を全面改修した上で、10年以上にわたって対外的に利活用することが条件となっているA事業の適用を求め、上限の補助金2千万円が交付された。2階のスタジオでは、1月に社交ダンス教室をスタート。1階では、ビール醸造所を夏ごろにオープン予定だ。

■私有の建物残して

 ふるさとづくり事業は、13年度に制度が設けられた。補助は3種類で、歴史的建築物の大規模改修をサポートするA事業のほか、町並みと調和した外観を整えるB事業(上限100万円)、にぎわい創出につながる建物の内部改修を行うC事業(同40万円)がある。申請できるのは、中心市街地と周辺で実施する改修。補助は基金から行い、財源は主にふるさと納税を充当している。これまで、26件に補助金が交付。補助額は計約8720万円に上った。

 足袋蔵などは、ほとんどが私有の建物だ。制度を作った理由を、市は「個人の都合で取り壊されていくのを防ぎたかった」と説明。市などの文化財に指定されていないものを含めて、歴史的建造物に広く補助を行っている自治体はあまりないという。

■ビール片手に語る

 行田市は「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」として、県内唯一の日本遺産に認定されている。象徴とも言える足袋蔵など歴史的建築は、市によると約80軒残っている。だが、多くは保管庫として造られたため表通りに面した建物が少なく、利活用されにくいのが課題だ。A事業の補助は、今回で3件目。26年度は4件目として、日本遺産の構成文化財となっている「行田窯」の改修に補助が行われる予定だが、以降の見通しは立っていない。

 本多さん夫妻が開くビール醸造所では、県内のクラフトビール工房で学んだ淳さんが瓶内発酵させた商品を提供し、店内でも味わえるようにする。淳さんは「蔵そのものを美術品のように見せることで、建物を後世へ伝えたい。ここに集まったお客さんがビール片手に行田のまちについて語り合い、地域が活性化したらうれしい」と願った。

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