埼玉新聞

 

埼玉は少し変わった? 全国初エスカレーター立ち止まり条例1年、駅で見られた変化 リバウンドの兆候も

  • JR浦和駅にあるエスカレーターに乗る利用客ら=3日午後、さいたま市浦和区

 エスカレーターを歩かずに立ち止まって利用することを義務付けた全国初の「県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」(エスカレーター条例)は、昨年10月1日の施行から1年が経過した。専門家の調査では右側に立つ人の増加など一定の成果は見受けられたものの、啓発への「慣れ」からリバウンドの兆候も。利用者は条例に対する認識の違いに戸惑いを隠さない。浸透しているとは言えない状況の中、民間企業もPRソングを制作するなど周知を後押しする。

■行動変容

 条例は、エスカレーターでの駆け上がりなどの危険な乗り方をする利用者に巻き込まれてけがをしたり、片側を空けて搭乗することで障害を持つ利用者が乗りづらくなるなどの課題をなくすための対策として定められた。罰則規定はない。

 条例施行前から大宮駅のエスカレーターを観察している筑波大学の徳田克己教授は、利用者の状況について「条例によって多少の行動変容があったといえる」と話す。

 徳田教授の研究チームによると、大宮駅の東武線からJR線への乗り換えに使われている上りエスカレーターでは、条例施行前の昨年9月17日午前7時半~同8時半の1時間で60・2%の利用者が歩いて利用していた。以降、時間帯や天候などの条件を合わせて同様の調査を行ったところ、条例施行日の10月1日は62・0%と微増したが、1週間後の8日は55・3%、1カ月経過した11月5日は51・9%、翌年1月14日には38・1%と順調に減少。しかし先月30日に行った調査では61・1%と増加に転じた。

 リバウンドの要因について徳田教授は「条例の啓発パターンが当初と変わっておらず、慣れが生じてしまっているのではないか」と分析。一方で数値としては表れていないものの、施行前や直後には見られなかったエスカレーターの右側に立つ利用者も増えているとし、「施行から1年経過しただけで効果があったかどうかを判断するのは難しいが、行動変容はあった」と評価した。

■認識の相違

 ただ、依然として条例が浸透しているとは言い難い。JR浦和駅のエスカレーターに乗っていた40代女性は条例を知ってから右側に立ったが、後ろから歩いてきた利用者に詰め寄られたことがあるという。「条例を知っている人とそうでない人の認識は違う。自分が間違った動きをしているのかと錯覚してしまった」。エスカレーターを歩いていた男子高校生は「条例は聞いたことあるけど、帰宅時などは人が多いので周りの状況を見て歩いてしまうことがある」と話す。

 県は駅構内や商業施設で啓発ポスターを掲示したり、音声案内を行ったりしているが、民間でも周知に一役買おうとする動きがある。

 FMラジオ局のエフエムナックファイブ(さいたま市)では、毎週月曜~木曜午後に放送している番組内での企画として、パーソナリティーらがエスカレーターで立ち止まることを呼びかける楽曲を制作。「エスカレーターに乗ったらね 歩かないのがルールなの」「乗ったらそのまま STOPよ」などの直接的なメッセージを何度も繰り返す楽曲をリスナーに届けている。

 番組プロデューサーの都丸征紀さんは「エスカレーターの片側空けなどのマナーは長い時間をかけて形成された。だからこそ、放送を通じて何度も楽曲を聴いてもらおうと考えた。エスカレーターに乗った時、自然と意識してもらえるようになったらうれしい」と期待を込めた。

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