埼玉新聞

 

たくましい地域の“かあちゃん”…「おふくろの味」が評判、久喜で居酒屋営む岩崎房子さん 夫の反対を押し切り、未経験から始めた店…週末は満席で入れない繁盛店に 娘と切り盛り、今夜も腕を振るう92歳

  • カウンターで接客する岩崎房子さん(左)と次女の由美さん

    カウンターで接客する岩崎房子さん(左)と次女の由美さん=久喜市菖蒲町小林の「小料理 弥次喜多」

  • カウンターで接客する岩崎房子さん(左)と次女の由美さん

 久喜市菖蒲町小林で居酒屋「小料理 弥次喜多」を営む岩崎房子さんは92歳。次女の由美さん(61)と一緒に店を切り盛りしている。未経験から飲食店を始め、今年で43年目。豊富な人生経験と、懐かしい「おふくろの味」で常連客の心と舌をつかんでいる。「長生きできたのはお客さんのおかげ」と語り、今夜も腕を振るう。

 「お客さんは私の子どもみたいなもん。だから、好きなものをたくさん食べさせたくなる。90歳を過ぎても、たくさんの人と話ができて本当に幸せ」。手書きのメニューが並ぶ戸棚の前で、岩崎さんは背筋をぴんと張って笑顔を浮かべる。

 菖蒲地区の生まれ。小学生の時に太平洋戦争を経験した。防空頭巾を背負って登校し、竹やりを持って遠足に出かけた。戦後はミシン工場に勤め、22歳で結婚。子ども5人、孫10人、ひ孫5人に恵まれた。幼なじみだった夫は64歳で他界したが、「酒は飲まない」という約束は現在も守り続けている。

 夫の反対を押し切り、店を始めたのは50歳の時。仕事と子育てを両立させるためだった。カウンター5席、メニューはもつ焼きとサイダーのみ。客の要望を受けて、酒やつまみも出すようになった。飲食店での経験はなく、「口に合うかな」「しょっぱくないかな」と反応を見ながら腕を磨いた。

 やがて家庭料理の煮物や野菜炒めが評判を呼び、週末は満席で入れないほどの繁盛店となった。営業日は「ゆっくり星を眺めたこともない」ぐらい忙しく、食事中に居眠りして茶わんを落としてしまうことも。日中もカラオケや社交ダンス、グランウンドゴルフなどの趣味に没頭し、精力的に活動した。

 そんな岩崎さんを隣で支える由美さんは「頑固で自分の考えを曲げない」と評する。料理は勘とスピードを重視し、慎重な由美さんとは正反対。レシピも作らない。昔は意見の対立からけんかすることも多かったが、最近は「こういう性格だから、店を続けられたんだ」と納得している。

 優しく、たくましい地域の「かあちゃん」を慕う客は多い。常連の渡辺真治さん(42)は「人生の大先輩で、いろんな経験をしている苦労人。話をすると元気をもらえる。料理もおいしい」と赤い顔でグラスを傾ける。40年近く通い続けている人もいるという。

 東海道中膝栗毛を由来とする店名の「弥次喜多」には、「1人よりも2人で」という歓迎の気持ちが込められている。岩崎さんは「お店は私の生きがい。これからもお客さんと会うため、一日でも長く続けていきたい」と語った。

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