【参院選】排外主義増幅に懸念の声 「外国人」争点に急浮上 漠然とした不安や不満の風潮に乗り 有識者「共生へ法整備を」
「違法外国人ゼロ」「日本人ファースト」「移民政策の是正」―。参院選で複数の政党が外国人に関する対策を打ち出し、争点に急浮上した。候補者らが演説でも繰り返し、専門家は「『外国人をないがしろにしてよい』というメッセージを含んでいる」と警鐘を鳴らす。多文化共生に関わる有識者からは、労働人口の減少が進む日本社会で、共生のために法整備を求める声が挙がる。
「ルールやマナーを理解しない外国人のために、生活に影響が出ていると聞いた」。公示後、初めての土曜日となる5日、JR蕨駅で参政党の候補者が声を張った。国外では移民政策が失敗したなどとして、際限のない外国人受け入れに反対を表明した。
同党は「日本人ファースト」を掲げ、交流サイト(SNS)や動画投稿サイトなどで潜在的な保守層を取り込んできた。神谷宗幣代表が6日、大宮駅で「反グローバリズム」を訴えると、詰めかけた支援者が熱心な拍手を送っていた。神谷代表は取材に「極右と言われることもある」と批判への認識を示した上で、「差別は駄目と言っている」と強調。「(特定の外国人が集住する)川口の問題は党員からも声を聞く。県民も不安を感じている」と主張した。
埼玉選挙区の複数の候補者が排外主義的な政策を主張している。街頭演説を聞いたさいたま市南区の男性会社員(45)は数年前に動画サイトで偶然、政党の動画を見て政治に興味を持ったという。県南部で多く暮らす外国人について「一定数の候補が話題に挙げている」とし、「自分は実際に会ったことはないが、いろんな人が危険、怖いと言うので良いイメージがない。何とかしてくれそうな政党に投票したい」と話す。
「X」(旧ツイッター)では、生活保護などの社会保障で「外国人が優遇されている」などとする投稿が上がっている。数万件の「いいね」が付いたものもあり、外国人に厳しい姿勢を示す政党への投票を呼びかける主張も目立つ。
実際に外国人は優遇されているのか。厚生労働省が公表した統計によると、2023年に月平均で生活保護を受給した約165万世帯のうち、外国籍は約4万7千世帯。10年前の13年は全体の約159万2千世帯に対し、外国籍は約4万5千世帯で、外国籍が占める割合はいずれも3%前後で、10年間で横ばいだった。福岡資麿厚労相は15日の記者会見で、「外国人を優先していることはない」と否定した。
今回の選挙戦で外国人を巡る政策が争点に浮上した経緯について、世論調査や選挙情勢調査を行う「社会調査研究センター」(さいたま市桜区)代表で、埼玉大学の松本正生名誉教授は「特定の政党が声高に現状を強調し、他政党が過剰に反応した」と分析する。
松本名誉教授によると、選挙前には外国人対策は明確な課題としてそれほど注目されていなかった。現況に対する漠然とした不安や不満の風潮に乗り、とがりの効いた主張をすることで、SNSで拡散され焦点が当たったとして、「感情を含んだ主観的な情報は事実と乖離(かいり)することがあり、SNSがその傾向を加速させる」と懸念。「SNS上の傾向を、新聞やテレビなどのオールドメディアが過敏に取り上げ過ぎているのではないか」とした。
選挙戦で事実に反する情報が流布されている現状を受け、外国人人権法連絡会などの人権団体は「排外を扇動しかねない」と懸念を示す共同声明を発した。同連絡会の師岡康子事務局長は8日の会見で「国民が生活に困っているのは現政策の問題なのに、外国人が不満のスケープゴートにされている」とけん制した。
外国人が多く住む川口市芝園町の芝園団地で、共生に向けた活動をしてきた岡崎広樹さん(44)=三郷市=は、多文化コミュニティーを形成する専門組織の必要性を訴える。これまでのボランティアに頼る方法では、過度の負担がかかるだけでなく、支援の「むら」ができるとして「政策レベルの支援が必要」と言う。
「労働人口が減ることは数十年前から分かっており、外国人材なしには成り立たない業種や地域もある」とし、「手遅れ感は否めないが、長期的な方向性と地域社会の中での受け入れの在り方をしっかり議論してほしい。それが政治家の仕事だ」と強調した。










