埼玉新聞

 

大型工事、対応難しく WTO入札不調 価格高騰や人手不足も拍車 2028年度開校予定の義務教育学校の新校舎建設工事が入札不調に 「何事も基準の中でやらざるを得ない」/さいたま市長選・政令市の課題(2)

  • 義務教育学校の建設予定地。沼影公園の解体工事が実施されている=さいたま市南区沼影の沼影公園

    義務教育学校の建設予定地。沼影公園の解体工事が実施されている=さいたま市南区沼影の沼影公園

  • 義務教育学校の建設予定地。沼影公園の解体工事が実施されている=さいたま市南区沼影の沼影公園

 さいたま市長選は25日に投開票を迎える。135万人が暮らす政令市の課題を追った。

 2月にさいたま市が募集した大型建設工事の一般競争入札が参加者不在で不調となった。南区の武蔵浦和駅周辺で進める義務教育学校の新校舎建設工事で、2028年度に開校を予定している。全国で大型工事の入札不調が起きている中、心配する声は担当部署から上がっていたというが、同市誕生以来、国内外の企業を問わず参加できる世界貿易機関(WTO)案件の建設工事の入札不調は初めて。契約課の担当者は「戸惑いもある」と漏らした。

 開校スケジュールに間に合わせるため、急ピッチで準備を進め、4月中旬に再公告。当初148億6100万円だった予定価格は、163億4600万円まで1割近く上昇した。市教育委員会学校施設整備課によると、24年12月時点で算出していたが、25年3月の適用単価に入れ替えた結果だという。

 国土交通省によると、25年度の公共工事労務単価(全職種)は前年度比6%増で、13年連続の上昇となった。また、建設資材の価格は21年後半から原材料費やエネルギーコストの上昇によって高騰。23年以降は高止まりが続いている。

 公共工事では、工事の契約締結後に賃金や物価の水準が変動し、一定程度を超えた場合に請負代金額の変更を請求できる「スライド条項」が活用できる。ただ、変動額の一部は受注者負担となるため、ある建設関係団体の幹部は「今のような物価上昇局面では負担がある。民間工事だと取り合ってもらえないこともあるので、少し面倒を見てもらえるだけでもありがたいが…」と言葉を濁す。

 深刻な人手不足も拍車をかけている。背景にはスーパーゼネコン(売上高の上位5社)に県内の人材が流れてしまう状況があるといい、前出の幹部は「地域の会社は人手を確保できない。内定を出しても入ってもらえないと聞く。会社の技術者が足らず、取りたい工事があっても取りにくい」と明かした。

 入札不調を回避するため、市は発注の時期や方法を工夫し、提出書類の電子化や技術者の常駐義務緩和に取り組む。契約課によると、建設工事の不調率は、19年度7・68%▽20年度7・05%▽21年度5・10%▽22年度6・95%▽23年度4・83%と減少傾向にある。

 ただ、入札不調が目立つ大型工事については対策の難しさも口にする。市建設局の幹部は「業者が適正と考える価格と差があるのかもしれないが、公共工事なので資材価格や労務単価、何事も基準の中でやらざるを得ない」と打ち明ける。義務教育学校の入札についても「見守るしかない」と言葉少なだった。

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