2022年6月7日(火)

<埼玉文学賞を語る>ネットで若者の愛好者増 短歌部門の審査員・沖ななもさん「自分の本音を歌に」

「賞を狙ってこじんまりとした作品より、未完成でも新しい試みのある作品を選びたい」と話す沖ななもさん=さいたま市浦和区

 Z世代と呼ばれる若者たちの間で短歌がブームになっているという。埼玉文学賞にもその波が来ているのか、昨年は若者からの短歌の応募が増えた。2007年から同賞短歌部門の審査員を務める歌人の沖ななもさんは、短歌を通じて時代の変化を感じているという。しかし、作者の世代は違っても歌に期待することは同じ。「日々の生活で感じた自分の本音を歌にしてほしい」という。

 埼玉文学賞短歌部門の応募点数は2015年は35点だったが、年々応募が増えていき、昨年は過去最高の127点も集まった。例年、応募者は年配の人が中心。しかし、昨年は10〜20代の応募者が14人で、前年の4人から3倍以上も増えている。

 文語体で詠むことが多い短歌だが、若者世代では話し言葉で詠むことが当たり前になっているという。「最近の若者は言語レベルが高く、(短歌の)勉強をしないで感性で詠む人も多い。センスが良く、それなりに読ませている。迎合したくないが、これはこれで良いのでは。私も若い時には『これが歌か』と言われましたからね」とほほ笑む。

 短歌を学ぼうとしたら、結社などに入って主宰者や年配の先輩から指導を受けるのがこれまでのスタイル。しかし、最近の若者たちはネットから入ってくる。発表はSNS(交流サイト)、歌会も勉強会もオンラインで。特にコロナ禍で人が集まることができなくなって、その傾向が強くなった。

 しかし、ネットの利用者は若者が多く、年配の人たちはネットを敬遠しがち。その結果、若者同士で歌を評価し合う傾向となり、伝統的な短歌を詠む高齢者と、話し言葉で詠む若者の間で、価値観に溝が生まれているという。

 今後、短歌界がどのような方向にいくか「分からない」という。その一方で、旧仮名遣いで歌を詠む若者もいることを指摘する。「『古いものを切り捨てていい』というだけでない。今後、回帰する様相もあるかもしれない」。

 ただ、フィクションや他人のことについて歌にすることは疑問を感じるという。「本人の日々の生活の中から生まれた実感を、へたでもいいから歌にしてほしい。女性たちが生きにくい時代であり、本音が出てくれば、歌で時代を反映させることができる。(埼玉文学賞では)そういう歌をすくい上げていきたい」

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 埼玉新聞社は「第53回埼玉文学賞」の応募作品を募集している。2人の審査員に文学賞について語ってもらった。

 おき・ななも 1945年、茨城県古河市生まれ。1974年に歌人の加藤克巳氏に師事して歌誌「個性」に入会。「個性」解散後、後継誌「熾」の代表に。83年に第一歌集「衣裳哲学」で現代歌人協会賞、埼玉文芸賞を受賞。2004年に茨城県歌人協会賞、05年に埼玉文化賞。現在は埼玉県歌人会会長、埼玉新聞「埼玉歌壇」の選者などを務める。主な著作は歌集「衣裳哲学」「機知の足首」、詩集「花の影絵」、論考集「全円の歌人 大西民子論」など。

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