連載前から世界が注目!『魔法少女ダンデライオン』 作者が物語に託す「きれい事を全力で」
意志のこもったまなざしと、弱き者に寄り添う温かい心―。水帆かえるさんの『魔法少女ダンデライオン』(小学館)は“魔法少女もの”という競争相手が多いジャンルで強烈に輝く。連載開始前の予告カットが世界的にバズり、第1話から翻訳版の配信が決定した衝撃作だ。「人間の弱さに手を差し伸べる主人公を描きたい」と語る水帆さんと担当編集者に、作品に込めた思いを語ってもらうと、少女漫画の歴史が作り上げてきた「道」を快走する水帆さんのドライビングテクニックが見えてきた。(取材・文 共同通信=川村敦)
<人間を襲う怪人を魔法少女たちが退治する世界。高校1年のたんぽぽも、幼い頃に両親を怪人に惨殺された。ただ、そのたんぽぽを守り、育ててくれたのは「影の怪人シェイド」。いつまでも守られる存在ではいられないと、魔法少女としての才能を開花させたたんぽぽだったが、それはシェイドと「敵」になるということで…>
(1)怪人にも手を差し伸べる
記者 恐ろしい怪人に立ち向かうたんぽぽの目には強烈な意志の力がこもっています。目の表現に強烈なこだわりを持つ漫画家の藤田和日郎さんも第2巻の帯で激賞していますね。
水帆 描線全てに魂がこもっている藤田先生に帯文をいただけるなんて感激です。目は少女漫画の華だと思ってこだわっているので、褒めていただけてうれしいです。
記者 少女漫画と言えば、目ですよね。
水帆 『魔法少女ダンデライオン』(以下『まほライ』)はたびたび少年漫画寄りだと言われるんですが、私はめっちゃ少女漫画だと思って描いています。だからこそ、少女の頃の自分がときめくものにこだわっているんです。
記者 たんぽぽは、怪人を殺してしまうのではなく、改心させる手段を模索します。魔法少女として扱う武器が、剣や銃ではなく、傘であるというのが象徴的です。
水帆 怪人も元は人間という設定ですから、たんぽぽには、人間にも怪人にも手を差し伸べるキャラでいてほしいんです。武器らしくない武器がいいなと思っていた時に、Hさんに「傘っていいですよね」と言われて、そうじゃん!と思いました。
H 担当編集のHです。傘で影ができることで、表情を豊かにできるかなと。
水帆 たんぽぽの前髪も、連載の間に伸びて目にかかってきています。
H 少女漫画では前髪で表情の機微を表現することが定石ですし、編集の体感としても、目の表現がさらに強くなってきているなと感じています。
(2)手あかの付いたせりふをストレートに
記者 「Sho-Comi」2026年1月号には、敵対しているキャラのイバラをにらむシーンがあるのですが、とても迫力がありました。
水帆 あれは描きながら「うまく描けたぞ」と思っていました(笑)。
記者 そのイバラも、やっつけて終わりにはなりません。
水帆 そうですね。イバラは選ぶべき道を選べなかったキャラですし、怪人たちも怪人になりたくてなったわけではありません。私たちの人生にもうまくいかない時や、心が弱っている時期があると思うんですけど、『まほライ』ではその弱さみたいなものを否定したくないんです。
記者 単行本の3~4巻で戦う劇場の怪人プリマとステラもそうですよね。プリマもステラもスターを目指して挫折した女の子たちで、自分たちよりもひどい「悲劇」を見るために人々の記憶を奪います。ここでもたんぽぽは、その死をもって断罪とはしませんでした。
水帆 そうですね。断罪って簡単じゃないですか。だけど、人間の人生は、断罪されてもそこで終わりにはなりませんよね。
記者 たんぽぽはプリマとステラを改心させるためにこのように言います。過ちを犯した過去は消えないし、背負っていかないといけないけど「未来だったら変えられる」「何にだってなれるんだよ」。読んでいて感動しました。
水帆 王道のせりふですよね…(笑)。ただ、たんぽぽのせりふは、あえてオリジナリティーを出さないようにしています。手あかの付いたせりふになるんだけど、たんぽぽには全部ストレートに言葉にしてほしい。
H たんぽぽは素手なんですよね。
水帆 そうなんです。連載前は手袋をしているデザインだったのですが、素手に変えました。
記者 ほんとだ、変身すると手首にフリルがありますが、よくみると爪が描かれています。
水帆 ぬくもりが伝わる方が、たんぽぽのキャラに合っていると思います。
(3)怖い男の顔が描きたかった
記者 「まほライ」は、連載開始前の予告カットがSNSでバズり、小学館の少女漫画史上、最速級で英語版の配信が決まりました。この反響をどう感じていましたか?
水帆 めちゃくちゃ怖くて。どうしよう、どうしようって…。
H 「バズりましたね!」とLINEを送ったら、水帆先生は怖くて、部屋で膝を抱えて、布団をかぶって震えていたらしいです(笑)。
水帆 まだ第1話が公開される前だったので、これで第1話を読んで「期待外れ」って言われたらどうしようと、胃がきりきり痛みました。
H 私は第1話の良さを確信していました。運良くバズったので、小学館で翻訳を担当している部署に話をしに行き、現在は、北米版をほぼ同時に配信できる態勢を整え、英語圏の読者の方にも楽しんでいただけています。
水帆 その後の反響が思ったよりも良くて本当に良かったです。シェイドのことを「my sexy tumblr man」(思いがけない魅力のある推しキャラ、といった意味)とか言ってくれていて、面白い(笑)。
記者 シェイドはかなり、少女漫画らしくないキャラクターデザインですよね。
水帆 それはですね、いろいろと背景がありまして…(笑)。
記者 どういうことですか?
水帆 まず、私はなかなか連載会議が通らなかったんです。自分が何が描きたいのか分かっていなかったし、私自身が「Sho-Comi」の“本流”が描ける作家じゃないなと感じていました。だから半ばやけくそで、自分の性癖に沿ったキャラにしたんです。
記者 性癖…。
水帆 やっぱり怖い顔の男が描きたかった。ギザギザの歯で、目が鋭くて三白眼。私は「悪辣ヴィラン顔」って呼んでるんですが、この男で「Sho-Comi」の誌面を飾ってやるぞー!、と。
H 最初にいただいたキャラ表からシェイドはほぼ今のデザインのままですよね。
(4)心の中の男の子の声を聞く
記者 たんぽぽのキャラクターデザインはどのように考えたのですか?
水帆 魔法少女なので、モチーフがあった方がいいと思いまして、王道にお花にしようと思ったんです。ピンクだと桜がイメージされて、既存の作品がありますし、どうしようかと考えているうちに、たんぽぽって破裂音が2個もあって、怖い男の人が定期的に呼ぶとするとめちゃくちゃかわいいし面白いなと思い付いて。しかも、たんぽぽって英語にしたら「ダンデライオン」でいきなりかっこよくなるんですよね。日なたに咲いていて、光のイメージも強いです。
記者 衣装もかわいいんです。
水帆 シルエットで分かるようにしたくて、頭には綿毛をイメージしたポンポンをつけました。シェイドが逆三角形の体形なので、たんぽぽの衣装はAラインっぽく。たんぽぽは髪が短いので、次に出てくる魔法少女のピオニーは長髪にしました。
記者 敵キャラも、モチーフから考えていくのですか?
水帆 章ごとにモチーフを考えます。劇場の怪人プリマとステラなら、2人が目指していた「スター俳優」がモチーフで、魔法少女側には目にお星様がある男の子が出てくる。そして映画館で戦う、みたいな。単行本4巻の終わりから始まった「冠蔓島編」だと、昔話の「茨姫」がモチーフですね。エモいポイントとか、描きたい絵をイメージして、ストーリーを進めていきます。私は割と、ラストシーンを決めていることが多いです。
記者 結構、具体的に展開を決めてから描かれるんですね。
水帆 そうですね。アンカーとなるポイントを決めて、連載のドライブ感を大事にしながら進めています。逆にバトルシーンはノリですね。でっかいガトリングガンが出てきたらかっこいいなとか、心の中の男の子の声を聞いています(笑)。
記者 派手なバトルシーンも魅力ですが、少女漫画らしい会話劇やコマ割りも魅力です。
水帆 少女漫画の小回りの良さを生かしたいんです。シリアスなシーンが続くと、こっちの身が持たないので、いつもけんかしているシェイドとピオニーが合流すると、私もほっとする。やっぱり私はキャラの掛け合いを描くのが好きなので、本当はずっとそんなシーンを描いていたいんですけど…。魔法少女というジャンルの「箱」があってこその物語だと思うので、でかい箱が手に入ってうれしいです。
(5)ネームは51ページを3日で
記者 物語の展開も、初めから固まっていたのでしょうか?
水帆 描き始める前は、たんぽぽとシェイドの2人をもっとドライな関係性にしようかとも考えていました。お互いがお互いを利用し合うというか、魔法少女と影の怪人が、相手の見たくない部分に目をつぶりながらも、成功していくタッグですね。ただ、今の少女漫画って、仲が悪い2人が仲良くなっていくよりも、最初から仲が良い姿を読む方がトレンドだと思っていて、最初から仲良しにしました。
H 水帆先生から「こんな漫画を描いてみたいんです」と連絡をもらい、それがすごい良いイラストだったんです。そしたら、打ち合わせもほぼせずに「第1話を描いてみたんです」と送ってくださいましたよね。すでに仲良しバージョンでした。
水帆 描きたくて描いちゃいました(笑)。私、めちゃくちゃネーム(下書き)に時間がかかるんですけど、今までで一番すらすら描けました。51ページを3日で描いたので、最高速度です。
H それがほぼそのまま、第1話として公開された漫画です。
記者 え!? 本当ですか? そのまま完成稿だなんて、すご過ぎる。だからこそ第1話に、圧倒的なドライブ感があるんですね。
水帆 私にとって思い入れ深い第1話なのですが、その中でもたんぽぽが魔法少女として才能を開花させるコマが一番描きたくて、一番たぎったシーンです。ここが描けたから、連載にならなくてもいいか…、と思ったほどでした。
(6)きれい事を全力でやる
記者 水帆さんは子どもの頃から漫画が好きだったんですか?
水帆 そうですね。家には漫画が全くなかったので、近くの児童館に読みに行っていました。あんまり入り浸ると親の目が厳しくなるので、「将来漫画家になるための研究」と言って通っていましたね。
記者 では、描き始めたのは?
水帆 小学校の頃には見よう見まねでワンシーンだけ描くようなことをしていました。ちゃんとお話を考えて、最後まで描いたのは「サヨナラリフレイン」が初めてでした。
記者 2017年に小学館新人コミック大賞の少女・女性部門で佳作に選ばれた作品ですね。
水帆 中学2年生でした。誕生日を迎えていなかったので13歳の時です。
記者 初めて描いたものがいきなり受賞というのもすごい。
水帆 年齢と、まぐれです…。
記者 小学館に応募した理由は?
水帆 私は元々『きらりん☆レボリューション』(中原杏さん作)という漫画を読んで、「少女漫画ってすごい!」って思ったんです。だから投稿するなら小学館しかなかった。(中原さんが連載していた)「ちゃお」に出そうかなとも思ったんですが、「サヨナラリフレイン」はハッピーエンドじゃなかった。「ちゃお」にはハッピーエンドが載っていてほしいので、「Sho-Comi」かなと(笑)。
記者 ちなみに、好きな少年漫画は?
水帆 やっぱり『ONE PIECE』とか『銀魂』とか『鬼滅の刃』とかですね。高校生の時は、漫画の仕事を全然せずにファンアートばっかり描いていました(笑)。
記者 なるほど、なんとなく『まほライ』に通じるものがありますね。
水帆 『まほライ』はきれい事を全力でやっています。
記者 それこそとても難しいことです。そこに、てらいがないのも『まほライ』の魅力ですね。
水帆 やっぱり、てらいがあったり、ブレーキを踏んだりしたら、子どもも大人も分かると思うんで。「ついてこれるか、この俺の暴走機関車に…っ」という気持ちで描いています。
記者 (笑)。最近は、たんぽぽたちの死闘が繰り広げられていますが、グロテスクに描けるシーンでもそれを抑えて描いているのも魅力です。子どもにも読みやすいと思います。
水帆 ヤバさがストレートに伝わればそれで十分ですから、露悪的にならないようにしています。
記者 ここまでいろいろと振り返ってもらいましたが、実は『まほライ』の前に「Sho-Comi」で連載されていたエッセー漫画「ほぼ実録! 限界オタク大学生の日常」などで、水帆さんのプロフィルはつまびらかにされているんですよね。川崎市出身で、双子で理系のお兄さんがいて、水帆さんは東京工芸大を卒業されていて…。
水帆 全部ばれちゃってますね(笑)。連載が通らなかったことも全部…。
H 「Sho-Comi」として非常に期待している作家さんですから、なんとか連載企画を通したいと思っていました。読み切りをお願いしている中で画力も演出も、感情の描き方もものすごく良くなってきていて、「ほぼ実録! 限界オタク大学生の日常」も編集部が満場一致でスタートした連載でした。未読の方はこちらもぜひ読んでみてほしいです!
(7)私が描けば『まほライ』が存在する
記者 日常の場面も、バトルシーンも、ページをめくるごとに驚きがあります。ページの終わりでしっかりと話のネタを振り、めくったページの1コマ目で受ける…という連続で各話が作られていて、心地よくストーリーが進んでいきます。
水帆 『まほライ』の世界が好きなだけなんです。私が描けば『まほライ』が存在する。逆に、私が描かないと『まほライ』がこの世に存在しないという事実が、本当に一時期許せないほどでした。私が見たいものを、私が好きなように、しかも合法的にこの世に存在させることができる。それがうれしいんです。
記者 「ネームが遅い」とおっしゃっていましたが、こだわって時間をかけているのですか?
水帆 1週間で済んだらマシな方ですね。
H 「Sho-Comi」は2週間ごとに〆切りがありますので、だいたい1週間がネーム、残り1週間が作画という先生が多いです。水帆先生はネームにキャラや背景がほぼ下絵レベルで入っている状態ですので、下絵がない分、作画パートが早いのかも。
水帆 バトルとかだと、ちゃんと頭の中で考えていることをネームに落とし込んでいかないと、次にどんな展開になるのかが自分でも想像ができないんです。
記者 魔法少女が増えていくと、作画が大変そうですが…。
水帆 そうですよ、フリル地獄で(笑)。たんぽぽたちが血みどろで戦っている中、私は腱鞘炎と戦っています。こっそり、フリルが少なく見える角度を研究しています。
記者 各章のラストシーンは決めているとのことですが、『まほライ』自体のラストシーンも決めてあるのですか?
水帆 決めています。早くそれを描きたいと思うんですが、それを描くと『まほライ』が終わっちゃうんですよ…。子どもたちが編集部にファンレターを送ってくれたり、地元の児童館の子どもたちが『まほライ』のキャラクターを描いてくれたりと、連載しているとうれしいことばかりです。
記者 物語のこれからの展開を楽しみにしています。「Sho-Comi」もますます盛り上がると思います。
水帆 「Sho-Comi」という、いろいろな先生方が舗装してくださった道を歩かせていただいて、本当にありがたく、大感謝しています。これからも頑張りますので、楽しんでもらえればと思います。
水帆かえる 2003年川崎市生まれ。「サヨナラリフレイン」でデビュー。漫画の描き方は全て「Sho-Comi」誌上の漫画講座「まんがアカデミア」で学んだという。













