【連載】外来昆虫・クビアカ被害の現場から― 「ウメの被害も知って」 越生町では1割が被害 産業の基盤に影響 ウメ農家・山口由美さんインタビュー
全国で猛威を振るう特定外来生物「クビアカツヤカミキリ(クビアカ)」。報道ではサクラへの被害が取り上げられることが多く、ウメやモモなど果樹で甚大な被害が及んでいることは知られていない-。記者が全国有数の「ウメの町」として知られる埼玉県越生町を訪れ、被害の現状やウメならではの対策の難しさを取材した。
■クビアカとは
そもそも、クビアカツヤカミキリとは何か―。クビアカは、中国やモンゴルなどで自然分布する体長2~4センチほどのカミキリムシ。成虫がバラ科の樹木の表皮に産卵し、ふ化した幼虫は樹木を食べながら内部に進入し2~3年かけて成長する。
樹木の内部を食い荒らし枯死させるため、生態系や農作物、景観や観光業へ多大な影響を及ぼしていることから、2018年に特定外来生物に指定。成虫は一度に最大1000個の卵を産むなど繁殖力が非常に高く、爆発的な勢いで全国に広がっている。
■「まさかうちが」
今回取材で伺ったウメ農園「山口農園」(越生町上野東)では、25年に初めて被害を確認。11月ごろにウメの剪定(せんてい)のために農園へ向かうと、クビアカの幼虫が排出する木くずやふんが混ざった物体「フラス」があちらこちらで見つかった。
農園の代表を務める山口由美さんは「まさか、うちの農園がという気持ち。越生では21年に初めてクビアカが出て、存在は知っていたが、自分が被害者になるとは思っていなかった」と率直な思いを口にした。
現在、山口農園で栽培しているウメ約300本のうち、被害を受けたのは50本。2本はすでに伐採し、ほかの10本も今後伐採する予定だという。では、なぜここまで被害が拡大するまで気づかなかったのか。そこには、ウメ農家ならではの理由があった。
■クビアカは災害
クビアカの成虫の発生時期は6月~8月。ウメ農家は通常、6月までに収穫を終えると7月~11月の間に梅干しの加工業務に追われるため、農園に入らないことが多く、成虫の存在に気づかないのだ。
また、ウメは食用にされるため、幹に穴をあけて農薬を注入する「樹幹注入」が行えない。対処法の1つに防虫ネットもあるが、ウメの木は枝分かれが複雑でネットが巻きにくく、農家の間で高齢化や人手不足が進んでいることもあり、対応が遅れているという。
山口農園では、木が枯れた影響で収穫量も下がり、収益が低下。倒木の可能性があることから、例年300人以上が訪れる収穫体験も、今年は100人ほどに絞って行った。「クビアカは被害ではなく災害。越生のウメが見られなくなる日が来るかもしれない」。
■環境を守るための「農薬」
農家の間で、クビアカ対策に温度差がある現状も大きな課題の1つだ。農家によっては個人で小規模で営んでいることから対策に関心がない方や、無農薬にこだわる生産者もいるので、足並みをそろえるのが難しいという。
山口さんは現在、全国の農家らとグループチャットでクビアカに関する情報共有を実施。SNSで、消毒について多くの人に理解してもらおうと発信を続けている。「環境のために農薬をまかないという人もいるが、外来の虫の侵略こそが環境破壊につながっている。農薬で環境を守るという正しい認識が伝わってほしい」と力を込めた。
■ウメは産業の基盤
越生町産業観光課によると、現在、町全体のウメのうち約1割にあたる512本で、クビアカの被害が確認されているという。今年度、越生町はクビアカ対策に約2千万円の予算を計上。5月からは、県内の自治体に先駆けて捕殺奨励制度(予算100万円)を開設した。
7月3日時点で、40人の町民から54匹の捕殺したクビアカが持ち込まれたという。同課担当者は「ウメは越生の産業の基盤。未来の子どもたちのためにも、ウメを守るために死力を尽くしていく」と話した。
後編では、梅林での捕殺に密着。記者が、捕まえてから殺すまでの一連の作業を体験した。
=埼玉新聞WEB版=











