埼玉新聞

 

非行少年を自宅で預かり、更生につなげる 家庭裁判所の補導委託制度 民間ボランティアが「受託者」に 安定した生活で顔つきや言葉遣いに変化…少年らの成長「本当にうれしい」

  • 補導委託された少年たちが生活する6畳間。受託者を務める女性らが少年を預かり、更生を促す

    補導委託された少年たちが生活する6畳間。受託者を務める女性らが少年を預かり、更生を促す

  • 補導委託された少年たちが生活する6畳間。受託者を務める女性らが少年を預かり、更生を促す

 非行少年の立ち直りを支援する目的で創設された家庭裁判所の補導委託制度。民間ボランティアの支援者が「受託者」となり、少年を自宅などで預かりながら、更生につなげていく。受託者は少年たちの成長を実感すると、「本当にうれしい」と語る。

 補導委託制度の受託者を務める県内の女性(62)は、経営する会社の社長を務めながら、少年たちを受け入れている。父親が知人から制度を紹介され、補導委託を始めた。父親の死後、会社と補導委託をいずれも引き継いだ。父親の代から30年以上にわたり携わり、関与した少年は100人を超えるという。

 女性によると、委託を受ける少年は10代後半が多い。以前は特殊詐欺事件に関与した少年もいたが、現在は万引や傷害事件など比較的軽い犯罪の少年を受け入れている。会社の2階建て寮には6畳間が6室あり、少年たちがそれぞれ生活する。女性の母親や妹が夕食を用意。スマートフォンなどは使用禁止で、仕事用に通信制限のかかった「ガラケー」を持たせ、会社の仕事に従事させている。

 親の愛情不足と思える少年がほとんどだという。親との関係がうまくいかず、「家庭での居場所がなくなり、家を出て非行に走る」。会話を重ねると、甘えてくる少年も多い。洗濯物のたたみ方や部屋の掃除など生活態度に怒ったり、注意したり、少し褒めたりしながら、少年たちの成長を促す。仕事や近所の買い物以外は外出を制限している。「ここは少年院と同じ。酒やたばこを自制しないといけない」と言い聞かせる。

 安定した生活を送ると、少年たちの顔つきや言葉遣いに変化が生じていく。女性らとの会話や他の少年との関わり方から自然に分かるという。「1ミリでも2ミリでも成長してくれれば、うれしい」

 補導委託を終えた少年たちは結婚して父親になったり、起業したり、残念ながら再び非行に走る子もいるという。「仕事を頑張っている」と連絡が来たり、会いに来てくれると、すごくうれしい。女性は保護司も務めており、少年審判の結果を受けて寮を出ていく時、少年たちに「何かあった時は逃げないで、ここへおいでと言っている。最後のとりでだと思っている」と話していた。

 補導委託制度は非行を起こした少年への処分を決定する前に、民間のボランティアの受託者に少年を預ける制度。「身柄付き補導委託」と「通所型の補導委託」があり、少年たちは受託者らと一緒に生活をする中で、生活習慣や社会人としての心構えを学ぶ。

 さいたま家裁によると、管内で補導委託の対象となった少年はいずれも概数で2022年が3人、23年が5人、24年が2人。同家裁は「少年が家族や周囲の人との付き合いの在り方を見つめ直し、非行から立ち直る大変良いきっかけになっている」と制度の意義を説明している。

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