捜し物、拝むと見つかる? 埼玉・ときがわ、山間集落の越沢稲荷 あつい信仰「御利益は抜群」
ときがわ町椚平(くぬぎだいら)の山中、御神木の大杉の脇に祭られている小さな社(やしろ)「越沢(こえざわ)稲荷」には、不思議な御利益があるという。なくし物をした時に拝むと見つかるのだという。地元住民は「御利益は抜群」と口をそろえる。民間信仰が今も生きる山里を訪ねた。
■生活の一部みたい
椚平に住む畑和夫さん(71)は以前、山仕事をしている時にチェーンソーの燃料タンクのふたが見当たらなくなってしまった。困り果てて、越沢稲荷の方角を向いて拝んだ。顔を上げて、何げなく見た木の間にふたが見えた。すぐに近所でお供えの油揚げを借りて、お礼参りに行ったという。
地元のくぬぎむら体験交流館で話を聞くと、スタッフたちも御利益を口にする。小峰久美子さん(65)はビデオカメラ、戸口千代子さん(70)はキャッシュカードを「見つけてもらった」。坂本イク子さん(77)は、高知県に住む高校生の孫がときがわ町の稲荷様の方角を向いて祈ったところ、捜し物が見つかったという。
「捜したはずの場所なのに、拝んだ後にそこを見るとあるんだよ。不思議だね」と3人は話す。住民の清水誠司さん(66)も「見えなくなっていた物を、拝むと見やすくしてくれるのかな。迷信と言うかもしれないけど、理屈じゃないんだよ」。
椚平地区の住民数(11月1日現在)は42世帯81人。65歳以上の住民は76・5%を占めている。この地に代々住んでいる家ばかりということもあるが、「見当たらない物があると、稲荷様のとこがポンと頭に浮かぶ。なくちゃならない、なかったら心細い。生活の一部みたいなもの」と、坂本さんは言う。
■白狐を借りて神棚に
住民によると、越沢稲荷はこの地域の有力者の家が祭ったものらしいが、由来は分からない。社の中には、参拝者が納めた小さな陶製の白狐の置物がたくさんある。
地元の戸口勉さん(76)によると、戸口さんの家では25年ぐらい前まで、年末になると稲荷様から「お白狐」を一組借りてきて、五穀豊穣(ほうじょう)や家内安全を願って神棚に祭った。年末になると、借りたお白狐に、新しく買ったお白狐一組を付けて返していたという。
なぜ、捜し物の御利益に結び付いたのだろう。畑さんは「今は使い捨てみたいな風潮があるが、昔の人は物を大事にしていたこともあるんじゃないか」と推し量る。
■一番身近な神様
埼玉民俗の会顧問で長瀞町在住の民俗学研究者、杤原嗣雄さん(88)によると、県内各地では古くから、有力者が所有地に稲荷などを氏神として祭り、地域の人々の信仰も集めた。「一番身近な神様で、困ったことがあると、まずそこでお願いをする」。だから、その御利益は病気平癒や紛失物捜しといった生活上の困り事が多いという。
越沢稲荷の御利益についても「神様を拝めば心が落ち着いて、捜し物が見つかりやすくなる心理的な効果が大きいかもしれないが、それが信仰というもの。そこには神仏と地元の人との切っても切れない強いつながりがあるのでは」と話した。










