埼玉新聞

 

指揮官は「二刀流」 バスケB3さいたまブロンコスの泉秀岳HC 35日修行を終え、僧侶の資格を取得

  • 35日修行を終え、修了証を手にする泉秀岳さん=今年9月、山梨県身延町の身延山信行道場(本人提供)

    35日修行を終え、修了証を手にする泉秀岳さん=今年9月、山梨県身延町の身延山信行道場(本人提供)

  • 練習中、選手に指示を出すさいたまブロンコスの泉秀岳ヘッドコーチ=10月23日

    練習中、選手に指示を出すさいたまブロンコスの泉秀岳ヘッドコーチ=10月23日

  • 35日修行を終え、修了証を手にする泉秀岳さん=今年9月、山梨県身延町の身延山信行道場(本人提供)
  • 練習中、選手に指示を出すさいたまブロンコスの泉秀岳ヘッドコーチ=10月23日

 バスケットボールのBリーグ3部(B3)で奮闘するさいたまブロンコスに、異色の経歴の二刀流がいる。泉秀岳(しゅうがく)ヘッドコーチ(HC)=西武文理高出=はチームを率いて5季目となる一方、実家は狭山市の「経王教会」という寺で、今年9月には35日修行を終え僧侶の資格を取得した。教員免許も持つ33歳は「自分を見つめ直せ謙虚になれた。人のためになる仕事が好きだと改めて実感できたし、このクラブで日本一になることが今後の目標」。将来的な後継ぎを視野に入れつつ、修行の学びを本職に生かす決意だ。

■プロか教員か

 秀岳の名は、住職の父浩秀(こうしゅう)さん(71)の師匠に当たる人が「何か一つの事に山のように大きく秀でた人間になるように」と、名付けてくれたという。幼い頃から檀家(だんか)が来た際の手伝いやあいさつなど寺の仕事が身近にあった。バスケに熱中したのは中学2年から。順天堂大学で保健体育の教員免許を取り、教員になる選択肢もあった中で、プロの道へ進んだ。

 4クラブ目の仙台89ERS在籍中の2020年に新型コロナウイルスの影響で、3月でリーグは打ち切り。このタイミングで地元クラブ「埼玉ブロンコス」(当時)のオーナーが代わることを知り、自ら売り込み「さいたまブロンコス」第1号選手となった。

■朝3時半起床

 アシスタントコーチを兼任し、翌21―22シーズンからHCに就任。今でもオフシーズンは家業を手伝っているが、22―23シーズン中に父が倒れたことで後継ぎについて本格的に考えるようになった。23年6月~24年11月に僧侶の心構えや所作、法要の進め方などを学ぶ「僧道林」や筆記試験、検定試験、読経試験を受け、今年8~9月に日蓮宗の総本山・身延山久遠寺(山梨県)で僧侶になるための「信行道場35日修行」に臨んだ。

 朝3時半に起床し、水行から始まる一日。午後9時の就寝まで読経、写経、掃除…。「一つ一つの修行はハードであっという間なのに、一日がとても長く感じた」と回想する。35日間、スマートフォンが使えなかったことなどを通じて実感したのが「よく言う『時間がない』は言い訳。時間の使い方次第でどうにでもなる」。さらに「あいさつ、身だしなみなど当たり前のことを当たり前にやる大切さが身に染みた」と力を込めた。

■学びを本業に

 35日間の修行は自らを見つめ直す契機にもなった。「選手を未来へ導く」のがコーチ業。同様に僧侶も人の悩みを聞き、よりよき方向へ導く役割で「振り返ってみると『お坊さんの子だよな、俺』という感じで、人のためになることが好き」。ともに「人の心を動かす仕事」と自負し、指導者としては信頼できるコーチに練習を任せたり、まずは人の意見に耳を傾けてから判断するようになったという。

 クラブは来季、26年スタートの新2部(Bワン)への参入が決定。今季から人材サービス大手の「ディップ」が新オーナー企業となり30年に最高峰の新1部(Bプレミア)入り、その先の優勝を見据える。自身が来たシーズンは5勝35敗でB3で断然の最下位だっただけに、軌道に乗ってきた現状に「目標はブロンコスで日本一。プロのビリから始まったので、どこまで行けるのかワクワクする」と、下克上物語へ胸を高鳴らせた。

【泉秀岳(いずみ・しゅうがく)】 中学2年でバスケを始め、西武文理高校ではチームを全国高校総体(インターハイ)、全国高校選手権(ウインターカップ)に初めて導いた。順天堂大学卒業後はプロ4クラブを渡り歩き、2020―21シーズンにさいたまブロンコスに加入。翌シーズンからヘッドコーチを務め5季目。座右の銘は「攻撃こそ最大の防御」。「日本人選手が活躍するバスケ」を掲げ、日本代表選手の輩出が目標。将来的には実家の寺を継ぐ予定。狭山市出身、33歳。

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