自宅から5分の神社へ向かった父親…消息途絶える 増加する認知症による行方不明者 埼玉では昨年1年間に1812人 家族は支援の拡充や施策の周知を求める
高齢化による認知症患者の増加で認知症行方不明者が増加の一途をたどっている。埼玉県内の昨年1年間の認知症による行方不明者は1812人で、全国と同様に増加の傾向がみられ、対策が急務だ。行方不明者の家族は行政支援が隅々まで行き届いていないことに懸念を示し、「支援の拡充や積極的な周知を徹底してほしい」と訴える。
■父親を捜す家族
桶川市の渡辺俊治さん(81)は10月20日正午ごろ、「近くの神社へ散歩に行ってくる」と長男の真悟さん(50)に伝えて出かけたのを最後に消息が途絶えた。神社は自宅から徒歩約5分。1時間経過しても帰ってこないことを心配した真悟さんが様子を見に行ったが、姿はなかった。110番して警察官や警察犬、近隣住民らが捜したが見つからなかった。神社までは足取りをつかめたものの、消息は不明のままだ。現在も県内の警察署や掲示板などに情報提供を呼びかけるチラシを張るなど懸命に捜索を続けている。
俊治さんは真悟さんと、妻の加代子さん(82)と3人暮らし。61歳まで車などの塗料メーカー会社の社員として働いており、昔から明るく穏やかな性格で、家の前に人がいると外に出て話しかけに行くほど話好きだという。退職から10年以上がたった2018年に認知症と診断されたが、当初は普段の生活に支障はなかった。しかし1年前から、在宅中も「家に帰りたい」「仕事にいかなきゃ」などと言うようになり、認知症が進行していることが分かった。
■全国で1万8千人
認知症やその疑いがあり、昨年1年間に全国の警察に届け出があった行方不明者は1万8121人に上っている。前年からは918人減少しているものの、過去10年単位でみると増加傾向にある。県内での昨年の行方不明者は前年比100人減の1812人。行方不明者のうち発見時に死亡していたのは24人で、このうち約7割の17人が、最後に姿が確認された場所から5キロ圏内で発見されている。
認知症の行方不明者が増加している状況を受け、渡辺さんが住む桶川市では、徘徊(はいかい)の恐れがある高齢者らに対して衛星利用測位システム(GPS)端末の貸し出しのほか、識別番号が記されたステッカーを交付している。認知症の進行を受け、真悟さんは半年前から施策を活用していた。行方不明になった当日、俊治さんが履いていた靴に交付されたステッカーを貼っていたが、「近くの場所だから大丈夫だろう」とGPSを持たせていなかった。
真悟さんは、行政支援について「父と母の2人暮らしだったら、支援について調べることすらできなかったと思う」と懸念する。県内の各市町村のサイトに高齢者支援が掲載されているが、自発的に調べないと支援を知る機会が少ないことや、高齢者のみの世帯では調べるためのインターネット環境がないことを問題視する。行政支援を当事者が活用できるよう周知の工夫が必要だという。
県警人身安全対策課によると、県内63市町村のうち39市町が認知症患者に向けてGPS関連の行政支援を行っている。しかし、昨年の認知症行方不明者で生存して発見された人のうちの1%しかGPSを持っていなかった。購入する場合は一定の補助はあるが高価で、十分に普及していない。「GPSや紛失防止タグは効果的なので各自治体に相談してほしい」と行政支援の利用を呼びかけている。
俊治さんの捜索を続ける真悟さんは「なにも情報がなく、父の状態が分からないことが一番つらい。どんな形でも父のことを知りたい。ささいな情報でもあったら警察に電話してほしい」と訴えた。
情報提供は、上尾署生活安全課(電話048・773・0110)へ。










