犯罪被害者の終わりない苦しみを吐露 19年前の殺人事件で父と兄失った遺族 初めて公の場で心境語る 埼玉・狭山で犯罪被害者等支援の会が公開講座
狭山市で10月25日、犯罪被害者等支援の会「オリーブ」が公開講座を実施し、19年前に実家に侵入してきた男に父と兄を殺害された警視庁の伊藤巧さん(44)が、当時の心境を公の場で初めて語った。伊藤さんは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)でフラッシュバックに苦しみ、「自分だけ楽になっていいのか」と葛藤している二次被害の現状を説明。犯罪被害者の終わりない苦しみを吐露した。
2006年5月7日午前4時ごろ、当時25歳だった伊藤さんに、母の秀子さんから電話があった。「覚(兄)とお父ちゃん、殺さっちゃ。私も死にそうだ…」。山形県飯豊町で民家に侵入した男が、伊藤さん夫妻と帰省していた兄を刃渡り70センチの刃物で襲った。父と兄は複数回刺され死亡。秀子さんも搬送中に2度心肺停止となる重体だったが、一命を取り留めた。犯人は兄の幼なじみの男で、「小学生時代に兄にいじめられて恨みがあった」と逮捕後に主張した。
事件は死刑判決が出れば山形県内で初の事例になると、世間から注目を浴びた。
「殺されて当然だ―」。事件後からインターネットには心ない言葉や根も葉もないうわさが書き込まれ、伊藤さんは人間不信に陥った。事件の場にいるような錯覚に陥るフラッシュバックに苦しみ、PTSDと診断された。現在も完治には至らず、亡くなった父と兄への罪悪感から「自分だけ楽になっていいのか」と葛藤しながら通院しているという。
一方、裁判で犯人の証言は何度も変わった。無期懲役の判決が出た後は、裁判中に伊藤さんの元に届いていた謝罪の手紙も途切れ、民事裁判で確定した賠償金も支払われていないという。伊藤さんは「犯人は罪と向き合わず、どうしたら減刑されるかしか考えていなかった」と印象を語り、「(犯人の)一切の誠意のなさにまた苦しめられる」と終わらない被害者の苦しみを訴えた。
同会は犯罪被害者らへの支援や支援の大切さの周知のため、狭山市を拠点に活動する。佐藤咲子理事長は「私自身も45年間、被害者であることを隠してきた。巧さんも本当に壮絶な人生を生きて、やっと話していいよと言ってくださった」と語った。










