「埼玉は首都に隣接し、日本経済の中でも重要な地域」 第15代金融庁長官に就任 埼玉・草加出身の伊藤氏 金融業界の健全化に注力 基盤強化プランを年内にも策定
金融庁の発足から25年。前監督局長の伊藤豊氏(61)=草加市出身=が7月1日付で第15代長官に就任した。年内には地域経済の活性化を後押しする「地域金融力強化プラン」を策定。米国トランプ関税や物価高対策など国内経済が一層の厳しさを増す中、金融行政トップとして重要なかじ取りを任された。就任から約3カ月、現在の心境を聞いた。
―改めて長官就任の心境は。
「金融当局の働き次第でマーケットに不正がはびこったり、資金循環が滞ったりする場合があるので責任の重みを感じている。成長事業へ円滑に資金が回る仕組みを維持・強化することが私たちの使命だ。組織を束ねる立場として健全な金融市場確保に注力したい」
―金融庁誕生から25年。この間、仕事の力点は移り変わったか。
「資金循環の円滑化という金融庁の普遍的な役割は変わらない。一方で外的要因によって変わった力点も当然ある。バブル崩壊後の2000年前後は不良債権処理や銀行再編が中心だったが、現在は金融機関の健全性確保や収益力の強化、デジタルやAI(人工知能)、ブロックチェーンの活用など金融に親和性の高い新技術への対応が急務だ」
―近年、金融業界では顧客情報の流出や貸金庫からの窃取など不祥事が続く。
「個別事象によって性質が異なるものの、各社の文化(風土)やビジネスモデルなど不祥事が起こりかねない根本原因を特定し、着実に是正していく。業界と一体になって進めたい」
―貯蓄から投資へ。金融リテラシー向上への取り組みは。
「昨年春にJーFLEC(金融経済教育推進機構)を設立し、官民挙げて金融知識(常識)の醸成に取り組んでいるところだ。子どもから高齢者まで、幅広い世代に家計管理や詐欺に遭わないための対策などの基礎知識を広め、人生のさまざまなステージで適切に保険や投資信託などの金融商品の活用ができるような知識の普及に努めたい。学校や職場への講師派遣なども行っているので気軽にご相談いただきたい」
―地銀や信金・信組など地域金融機関への期待は。
「金融機関は地域に根差した活動をしているので、資金力だけでなく高い信用やネットワーク、豊富な人材を持つ。自治体や学校、産業界などさまざまなステークホルダーをつなぐ中心的役割を担ってほしい」
「そのためには財務や人的基盤の強化、コンプライアンス順守の徹底が不可欠。国では環境整備の一環として年内にも『地域金融力強化プラン』を策定する予定だ」
―県内経済界に期待することは。
「埼玉は首都東京に隣接し、日本経済の中でも重要な地域。創業ベンチャーから大企業の本社機能までが混在する産業集積地であり、首都圏のみならず、国内経済全体を支える、その役割は大きい。県内企業の皆さまとも不断に意見交換していきたい」
■伊藤豊(いとう・ゆたか) 草加市立栄小学校、同栄中学校、県立春日部高校卒。東京大学法学部卒業後の1989年4月、大蔵省(現財務省)入省。同省銀行局・金融監督庁(現金融庁)時代は平成金融危機への対応などに奔走した。その後は財務省大臣官房秘書課長、金融庁総合政策局総括審議官、監督局長を経て25年7月から現職。幼少期に都内から草加市に移り住み、ひたすら白球を追い駆ける野球少年だった。大学4年時は同大運動会硬式野球部で主将・捕手として公式戦にフル出場した。










