埼玉新聞

 

妻に異変…フライパンを冷凍庫に入れようと一生懸命 夫「数年前から兆候」 3つ目の病院で“若年性アルツハイマー型認知症”と診断 「これからどうしたら」と不安、“認知症希望大使”になろうと即決した理由

  • (左から)さいたま市の清水勇人市長、認知症希望大使に任命された田辺邦代さん、夫の直樹さん=17日、さいたま市浦和区のさいたま市役所

    (左から)さいたま市の清水勇人市長、認知症希望大使に任命された田辺邦代さん、夫の直樹さん=17日、さいたま市浦和区のさいたま市役所

  • 清水勇人市長(中央)から委嘱状を手渡された認知症希望大使の和田傑さん(右)、大沢健男さん=レイボックホール(市民会館おおみや)

    清水勇人市長(中央)から委嘱状を手渡された認知症希望大使の和田傑さん(右)、大沢健男さん=2024年7月、レイボックホール(市民会館おおみや)

  • これでいいのだバンドの演奏で大合唱する認知症の当事者や家族ら

    これでいいのだバンドの演奏で大合唱する認知症の当事者や家族ら=2024年7月

  • (左から)さいたま市の清水勇人市長、認知症希望大使に任命された田辺邦代さん、夫の直樹さん=17日、さいたま市浦和区のさいたま市役所
  • 清水勇人市長(中央)から委嘱状を手渡された認知症希望大使の和田傑さん(右)、大沢健男さん=レイボックホール(市民会館おおみや)
  • これでいいのだバンドの演奏で大合唱する認知症の当事者や家族ら

 21日の「認知症の日(世界アルツハイマーデー)」を前に、当事者であるさいたま市大宮区の田辺邦代さん(61)が新たにさいたま市認知症希望大使に任命された。17日の任命式で清水勇人市長から委嘱状を受け取った田辺さんは、「『(認知症になっても)やりたいことがあったら何でもやれるんだよ』と発信したい」と今後の活動に意欲を見せた。

 田辺さんは昨年6月、若年性アルツハイマー型認知症と診断された。夫の直樹さん(58)によると、数年前から兆候はあったが、明確に異変を感じたのは2023年。洗ったフライパンを冷凍庫に一生懸命入れようとする妻の姿を見た時だった。同年秋から検査を受け始め、三つ目の病院で認知症と診断された。現在は、軽度認知障害や軽度の認知症の人を対象とした治療薬「レカネマブ」の投与を受けている。

 認知症と診断された時のことを、田辺さんは「自分でもおかしいと思っていたので、『あーそうなんだ』っていうぐらいの感じではあった。ただ、『これからどうしたらいいんだろう』と不安があった」と振り返る。そんな気持ちを和らげてくれたのは、24年秋から参加している認知症の当事者や家族、支援者が集う「リンカフェ」や「ちいとも」の存在。県や市の大使を務める当事者とも交流し、「認知症でもやりたいことをやって、普通に生活していけるんだ」と感じたという。

 今年に入って大使を勧められ、「もっと発信していきたい。自分がやりたいことだ」と即決。そんな田辺さんを、直樹さんは「今じゃないとできないことも多い。妻がやりたいと思ったことは全力でサポートしたい」と温かく見守る。

 17日の任命式で、「今までの自分と違う、認知症の自分が始まったと思っている。いろんなことにチャレンジして、パワーアップしています」と語った田辺さん。清水市長は「田辺さんらしく活動してほしい」とエールを送った。

 さいたま市は昨年7月、認知症当事者が自らの言葉で語ることで、認知症になっても希望を持って前を向いて暮らすことができる姿を積極的に発信する「認知症希望大使」を全国の政令指定都市で初めて設置。現在は田辺さんを含めて3人の大使が活動している。

■全国の政令指定都市で初(以下、大使2人を任命時の記事)

 さいたま市は2024年7月4日、全国の政令指定都市で初となる認知症の人本人が務める「市認知症希望大使」に和田傑さん(58)と大沢健男さん(68)の2人を任命した。今月1日に開設した「市認知症フレンドリーまちづくりセンター」(同市中央区)のオープニングイベントの中で発表し、任命式で清水勇人市長が2人に委嘱状を手渡した。

 和田さんは、2021年に若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けた。若年性認知症の人と家族の会で運営する「リンカフェ」に参加し、認知症に関するイベントや講座などで講師も務める。大沢さんは、22年にアルツハイマー型認知症と診断を受け、まちづくりセンターの当事者カフェの企画に参加。認知症の人の居場所づくりに協力している。

 2人は希望大使として、認知症の普及啓発活動や認知症サポーター養成講座などで、自らの経験や考えを語っていくほか、まちづくりセンターの運営にも参画する予定。

 清水市長は「認知症の人本人が生き生きと活動していく姿は、認知症に対する社会の見方を変えるきっかけともなり、多くの認知症の人に希望を与えてくれる」とあいさつの中で大使への期待を寄せた。

 希望大使となった和田さんは「今まで通り普通の気持ちでやっていきたいと思う。明るく元気にしているのを皆さんに見てもらいたい。できないこともあるけれど、できることもいっぱいある」と力強く話した。

 オープニングイベントでは、さいたま市認知症疾患医療センター長の丸木雄一さんと福祉ジャーナリストの町永俊雄さんの基調講演が行われた。丸木さんは、専門医から見た認知症施策について、具体的な症例を紹介しつつ「認知症初期集中支援チーム」の活動や地域連携の取り組みにいて説明した。

 町永さんは、英国の認知症家族の会が13年に制作した当事者目線のドキュメンタリーを紹介。医療からケア、そして共生へと変化した認知症感、ケアリング・コミュニティーなどを解説した。

 イベントは、認知症当事者を交えた「これでいいのだバンド」とリンカフェ合唱団によるオープニング記念演奏会でフィナーレを迎えた。「東京ブギウギ」「世界で一つだけの花」など数曲を会場全体で合唱し、思いを一つにした。
 

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