埼玉新聞

 

毎回のように抽選になるなど希望は多くても…52年間の運行を終了 埼玉県が保有するリフト付きバス「おおぞら号」 終了の理由は運転手不足など 利用する障害者団体は「寝耳に水、協議の場を」と訴え

  • リフト付き大型バス「おおぞら号」(県提供)

    リフト付き大型バス「おおぞら号」(県提供)

  • リフト付き大型バス「おおぞら号」(県提供)

 埼玉県は、保有するリフト付き大型バス「おおぞら号」の運行を2025年度末に終了すると発表した。バス運転手の不足やユニバーサルツーリズムの普及などを理由に挙げている。利用を続けていた障害者団体は、突然の通知に驚き、「当事者の話を聞かずに廃止を決めないで」と存続に向けて協議を求めている。

 県障害者福祉推進課によると、おおぞら号は武蔵野銀行から寄贈された車いすなどを昇降するリフト付きの大型バス。障害者の訓練や研修などに利用する目的で、1973年から約52年間にわたって運行を続け、現在は6台目。希望する団体は多く、年60日間の運行日はほぼ埋まり、毎回のように抽選で決まっているという。

 しかし、社会のバリアフリー化が進み、民間旅行会社による障害者向けバスツアーなどユニバーサルツーリズムが普及したことなどから県は見直しを決めた。

 特に影響が大きかったのが近年のバス運転手の不足。県は2024年度から運行を従来の日数より半減させるなどしてきたが、それでも26年度以降の運行が見通せなくなり、来年3月が最後の運行になった。終了は6月10日にホームページで公表され、23年度以降、利用を続けていた障害者団体には通知書が送られた。

 一方、県障害者協議会の田中一代表理事(72)は「今回の終了通知は、まさに寝耳に水だった」と驚きをあらわにする。

 田中さんによると、民間にも同様のバスを運行する企業はあるが、事業者数や台数は少なく、介助器具を扱う乗務員の研修も進んでいないという。

 さらに、有料道路や駐車場料金、バス乗務員の食事代などを除く基本料金が無料だったおおぞら号に対して、民間のリフト付きバスは一般の貸し切りバスより約1・5倍ほど高い。障害者団体が負担するには厳しいのが実情だ。

 「おおぞら号は、障害者の社会参加に貢献してきた。事業として県で取り組む意義はある。当事者の障害者団体と意見を交わし、協議する場を設けてほしい」と田中さんは訴えている。

 県障害者協議会は7月、大野元裕知事宛てに障害当事者・利用団体との協議を求める要望書を提出した。県は今後、同様のバス運行を行う民間事業を障害者団体に案内するなど、継続して障害者でも安心して旅行を楽しめる環境づくりに取り組んでいくとしている。障害者福祉推進課は「複数の障害者団体と意見交換を進めていく意向だ」と話している。

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