埼玉新聞

 

年間4万人超…川島の笛木醤油、工場見学が好調 目立つ海外の観光客、和食ブームで海外展開も積極的に 江戸時代の蔵、体験施設にリノベも…要望多かった体験コーナー新設、さらなるインバウンドの誘客へ

  • イタリア人の母娘に英語でしょうゆについて説明する笛木吉五郎社長(左端)

    イタリア人の母娘に英語でしょうゆについて説明する笛木吉五郎社長(左端)=8月29日、川島町上伊草の笛木醤油

  • 江戸蔵で行われるせんべいの手焼き体験。数種類のしょうゆを塗って食べ比べができる

    江戸蔵で行われるせんべいの手焼き体験。数種類のしょうゆを塗って食べ比べができる=2日、川島町上伊草の笛木醤油

  • イタリア人の母娘に英語でしょうゆについて説明する笛木吉五郎社長(左端)
  • 江戸蔵で行われるせんべいの手焼き体験。数種類のしょうゆを塗って食べ比べができる

 川島町上伊草の老舗しょうゆメーカーの笛木醤油(しょうゆ)が運営する「金笛しょうゆパーク」の工場見学者数が、年間で4万人を超えるなど好調だ。中でも目立っているのは海外からの観光客。江戸時代の蔵を体験施設にリノベーションした「江戸蔵」も6日にオープンし、さらなるインバウンドの誘客を狙う。

■誘客の陰にSNS

 寛政元(1789)年創業の同社が、創業230周年の2019年にオープンさせた金笛しょうゆパーク。工場見学の「しょうゆ楽校」の参加者は、今年7月で累計15万人に達した。最近は、欧米などからの観光客が参加者の1割を占めるという。

 8月下旬、工場見学に参加していたのはイタリア人の母娘。大学の経済学の教授のパオラ・サコさんと、心理学者のシルビア・ポリさんだ。日本の食文化に関心があり、初めての日本旅行で伝統的なしょうゆ蔵の見学をしてみたいと思ったという。

 留学経験もある笛木吉五郎社長(45)が英語で、木桶(おけ)で1年以上熟成させる伝統製法について説明すると、2人は「アメージング!(素晴らしい)」。木の桶や樽(たる)で長期間熟成させるところがワインと共通していると感じたと話す。

 笛木社長によると、海外の観光客が増えている背景に交流サイト(SNS)が影響しているという。インフルエンサーが体験をアップし、それを見た人が訪れる。「感動が、また次の感動を呼んでいる」という。

■インバウンド2割へ

 国内外からの誘客をさらに図るため、6日にオープンしたのが「江戸蔵」だ。創業時からあったといわれる蔵を、7千万円かけてリノベーションした。

 木造2階建ての土蔵で、防火性の高い二重の屋根が特徴という。昔はしょうゆの醸造に使われたが、近年は倉庫となり、壁や屋根の老朽化が進んでいた。2年前から構想を考え、約1年がかりで修復や耐震補強を行った。

 2階にこれまで外国人見学者からも要望が多かった体験コーナーを新設。だししょうゆ作りや、せんべいの手焼きなどのワークショップを行う(予約制)。1階は売店で、さまざまな種類のしょうゆや、しょうゆを使ったスイーツなど30種類の商品を販売。

 新商品は10種類で、動物性食材不使用のビーガンのポン酢は、かつお節の代わりに昆布を使っている。これは外国人の需要を考えて開発した。

 同社は江戸蔵オープンを契機に、年間の工場見学者を1万人増の5万人に、インバウンド客をこれまでの1割から2割に増やすことを目標にしている。

■地域活性のモデルに

 国内のしょうゆ消費が頭打ちの中、同社は海外展開も積極的に行っている。和食ブームに乗り、主な輸出先はフランスやドイツなどの欧州。近年は米国への輸出が拡大していたが、トランプ関税の騒動で4、5月の米国輸出は昨年同期の半分程度に落ち込んだという。関税率は15%で合意され、8月は落ち着いてきたというが、不安は拭えない。

 その中で活路となるのがインバウンド。同社に観光で訪れた香港のラーメン店主がしょうゆを気に入り、香港の店で同社の商品を使っているという。また、フランスで同社のしょうゆを味わい、日本旅行で同社に見学に訪れた人も。「インバウンドとアウトバウンドは車の両輪」と笛木社長は言う。

 「小さいしょうゆ蔵だが、発酵や伝統をキーワードにインバウンドを呼び込み、地域のことを盛り上げる一つのモデルとなるようにしたい」と話した。

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