埼玉新聞

 

熊谷空襲、年々減る体験者…証言残す活動する市民らも高齢化 欠かせない若者の参画、芽生える学生らの自覚「若い世代が伝えていかなければ」

  • 「星川とうろう流し」に向けた灯籠作りを撮影する松田みなみさん(中央)  ※画像の一部を加工しています

    「星川とうろう流し」に向けた灯籠作りを撮影する松田みなみさん(中央)=4日、熊谷市内(画像の一部を加工しています)

  • 「熊谷空襲を忘れない市民の会」の定例会で、完成した映像を試写する小林尚平さん(中央)

    「熊谷空襲を忘れない市民の会」の定例会で、完成した映像を試写する小林尚平さん(中央)=7月12日、熊谷市内

  • 「星川とうろう流し」に向けた灯籠作りを撮影する松田みなみさん(中央)  ※画像の一部を加工しています
  • 「熊谷空襲を忘れない市民の会」の定例会で、完成した映像を試写する小林尚平さん(中央)

 熊谷空襲の体験者は年々減っている。彼らの証言を残そうと活動する熊谷市民らも高齢化。後世に教訓を伝えるには、若者の参画が欠かせない。学生たちの取り組みも、少しずつ芽生えている。

■企画展と平和展で上映

 7月12日、市内で開いた「熊谷空襲を忘れない市民の会」の定例会で、試写会が行われた。7分余りにまとめた短編ドキュメンタリー映像の題名は、「星川を流れる光」。市内出身、在住で日本大学芸術学部映画学科2年生の小林尚平さん(20)が、昨年から制作してきた作品だ。

 小林さんは、授業で課された映像制作のテーマに熊谷空襲を選んだ。小学校6年生の頃、学校の授業で学んだことを思い出したという。「若い世代が、熊谷空襲について知っていることが大切。自分も記憶を残そうとしている営みの一端を担えればと考え、作り始めた」と小林さん。熊谷空襲と戦後80年を題材に、市立熊谷図書館で行われている企画展や、13日に市内の八木橋百貨店で開幕した平和展で見ることができる。

■小学校の教材に採用

 本年度、市立小学校ではタブレット端末で使う教材として、市内にキャンパスがある立正大学大学院地球環境科学研究科の大学院生4人が作った戦跡マップが提供された。大学院生は2023年、授業の一環で熊谷空襲の爪痕が残る場所を記した地図を作製。これが「市民の会」の目に留まり、市教育委員会に活用が働きかけられた。

 博士後期過程1年生で、研究グループの現リーダー、本多一貴さん(24)は「行政だけ、民間だけでは、歴史の継承は難しい。両者が協働すれば、引き継ぐことが可能になる」と言う。マップを入り口に深めた研究成果は、9月の学会で発表する予定。本多さんは「80年間で戦争の記憶がどのように伝えられてきたかを知ることは、未来へのヒントになる」と強調する。

■大学でも学び深める

 市内出身、在住で駒沢大学文学部歴史学科3年生の斎藤可奈さん(20)は、県立熊谷西高校3年生の時、仲間たちと全国高校歴史学フォーラムで、熊谷空襲を例に負の歴史の舞台を巡る「ダークツーリズム」について発表した。その経験から、大学では近代史を学ぶ。「現在の進路を選んだのは、高校時代の発表で反響があったから。平成生まれの私たちだからこそ、できることもある」と話す。

 戦争中は、空襲時の市民による応急消火義務などを定めた「防空法」があった。斎藤さんは高校時代の研究で法律の存在を知り、衝撃を受けたという。大学では、卒論のテーマに据える意向。「空襲を経験した人たちは、いなくなってしまう。だから、若い世代が事実を知り、伝えていかなければ」と自覚する。

■まちの訪問重ね撮影

 さいたま市に住む目白大学メディア学部メディア学科4年生の松田みなみさん(22)は、卒業制作で熊谷空襲のドキュメンタリー映像作りに取り組む。小学生の頃から学校図書館で漫画「はだしのゲン」を読むなど、戦争に関心を持っていたという。「さいたま市内で戦争をテーマに何か撮ろうと考えて調べたら、たどり着いたのが熊谷空襲。太平洋戦争最後とされる空襲が熊谷であったことは、全く知らなかった」と明かす。

 今年に入って熊谷市内を何度も訪問し、撮影を重ねてきた。16日には、犠牲者を慰霊する「星川とうろう流し」も映像に収める計画。松田さんは「熊谷空襲の継承活動をしている人たちにも、若者はほとんどいない。20~30代に知ってもらえる作品にしたい」と構想を描いている。

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