被爆者らの証言で…次世代へつなぐ80年誌、これが最後になるかも 県原爆被害者協議会 進む高齢化、継承に課題「戦争を二度としないという熱量も受け継がなければ」
広島と長崎への原爆投下から80年。埼玉県内在住の被爆者を中心に結成している県原爆被害者協議会(しらさぎ会)が、節目となる80年誌の作成を進めている。被爆者らの証言で構成する予定だが、原稿が思うように集まっていない。編さんを担当する同会副会長の高橋溥さん(85)=川口市=は被爆者の高齢化が影響しているとし、「二度と戦争を起こさないためにも、若者へとつないでいく周年誌にしたい」と話している。
しらさぎ会はこれまでに1987年、97年、2020年の計3回、被爆者の証言集を発行してきた。写真や絵を織り交ぜながら原爆投下時のまちの様子、消えない心の傷が詳細につづられている。20年の75年誌では被爆者や被爆2世が寄稿し、広島が21人、長崎が17人に上った。5歳の時に広島の爆心地から約1・5キロで被爆した高橋さんは「同じ場所で被爆しても体験、感じ方はそれぞれ異なり、一人一人の証言が貴重」と語る。
■寄稿者の減少
高齢化した被爆者が体験を後世に残そうと、広島と長崎の国立原爆死没者追悼平和祈念館に寄せられた手記は今年4~7月で計83件と前年同期比で20件増加した。しらさぎ会への寄稿は6月下旬までに、6人にとどまる。8月末まで募集する予定だが、前回寄稿した被爆者の中には、既に亡くなった人もいるという。「もう作る人がいない。これが最後の周年誌になるかもしれない」と高橋さん。
日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を昨年受賞し、核廃絶への機運が高まった。周年誌には授賞式での田中熙巳代表委員(93)=新座市=のスピーチも収録を予定している。高橋さんは「ノーベル賞の流れに乗り、戦争のない世界をつくりたい」と意気込む。
■学生が作成に参加
80年誌の作成には東京工学院専門学校(東京都小金井市)の講師や学生が携わる。広島被爆者でしらさぎ会の坂下紀子さんの「次の世代につながる本にしたい」という思いから、坂下さんと縁があった同校非常勤講師の中村浩美さんに相談し、授業の一環として作成に携わることになった。
レイアウトや面割など、「若い人でも手に取ってもらえるようなデザイン」を目指し、作成に取りかかる。中村さんは「証言を紙で残すことは絶対に必要。学生たちには80年前に日本で起きたことを人ごととして捉えずに取り組んでもらいたい」と期待を込めた。
■試行錯誤の活動
被爆者から若者へ被爆の体験、教訓を受け継ぐ「継承」が課題となっている。一橋大学大学院で継承活動を研究する佐藤優さん(24)は、今の継承の在り方に疑問を抱く。若者が平和活動の式典でスピーチする際は選考などを経ており、「落選した人が平和活動をやめてしまわないか心配」と指摘する。
原爆のことを知ろうと、広島市立大に進学した佐藤さんは、広島で被爆者の活動する姿を見て継承活動を始めた。これまでに15歳で被爆した切明千枝子さん(95)の証言を基にした紙芝居を作成し、切明さんと一緒に広島を歩くフィールドワークも主催。「ここに遺体が積まれていた」「ここで同級生が泣いていた」と当時を振り返りながらまちを歩いた。「被爆者と歩くことで思いが共有される。被爆者が若者と出会う機会を増やせないか」と試行錯誤する。
被爆80年、当時の様子を鮮明に覚えている被爆者は少なくなっている。体験を語り継ぐことも重要だが、佐藤さんは「戦争を二度としない、後悔したくないという熱量も受け継がなければならない」と訴えかけた。










