ミスター誕生振り返る 長嶋さんと高校時代対戦した福島さん 「また元気な姿を」〈2022年のインタビュー再掲〉
〈長嶋茂雄さんの高校時代のライバル、福島郁夫さんの2022年10月のインタビューを再掲します〉
プロ野球巨人の終身名誉監督である長嶋茂雄さん(86)が9月に体調を崩して緊急入院した。長嶋さんと高校時代に対戦し、本塁打を打たれた熊谷市の福島郁夫さん(86)は、長嶋さんの回復を人一倍待ち望んでいる。これまで何度も病に打ち勝ってきたミスターだけに、福島さんは「また元気な姿を見せてほしい」と、かつてのライバルにエールを送っている。
■夏準Vの熊谷高
福島さんは秩父市出身。小学生で野球を始め、秩父第二中時代は県大会で準優勝した。中学卒業後に進学した県立熊谷高校は福島さんが中学3年生だった1951(昭和26)年、第33回全国高校野球選手権で2年生エースの故服部茂次さんを擁し、決勝で敗れたものの準優勝に輝いていた。
重い球質で、内角にナチュラルにシュート回転するボールが持ち味だった福島さん。熊谷高は全国準優勝したことで、全国各地の強豪が相次いで練習試合に訪れていた。福島さんも1年生の時から投手として活躍。「今で言うとツーシームが得意だったが、1年生の時でも結構通用していた」と当時を振り返る。
■バックスクリーンに
2年生になった53年8月1日、当時の県営大宮公園球場で行われた全国高校野球選手権の南関東大会1回戦で、千葉県立佐倉第一高校(現佐倉高校)と対戦。試合前に佐倉第一高の練習の様子を偵察してきたOBから「体が大きいのがいるから気を付けろ」と言われたが、それが4番を打っていた3年生の長嶋さんだった。
試合は熊谷高が一回に3点を先制、先発のエース福島さんも5回無失点の好投。だが、六回の長嶋さんの3打席目で、1ボール1ストライクからの3球目、内角高めの直球を低い打球でバックスクリーンへ運ばれた。「まさか打たれるとは思っていなかった」という一発だった。新聞には飛距離「350フィート」(約107メートル)と書かれた記事が載り、長嶋さんの高校時代唯一の公式戦本塁打となった。
試合は4対1で熊谷高が勝利したが、この本塁打をきっかけに長嶋さんは立教大学へ。また遊撃手だった長嶋さんが三塁手のけがで初めて三塁を守り、大きな転機の試合になった。福島さんは卒業後、東映フライヤーズ(現北海道日本ハムファイターズ)に入団し、2年目に13勝したが、けがの影響もあって60年に引退。その後は埼玉に戻り、熊谷市の八木橋百貨店で勤務した。
■再会で握手求められ
83年9月には県営大宮公園球場で、少年野球の表彰式で巨人の監督を退いていた長嶋さんと対面することに。高校以来の久しぶりの再会だったが、握手を求められ、「球が速かったね」と気さくに話しかけてくれた。相手はスーパースターでかなり緊張したが、良い思い出になったという。
これまで多くの取材も受けてきたが、今も題材になるのは長嶋さんに本塁打を打たれたこと。長嶋さんに打たれたことが今は大きな自慢になっている。「半世紀以上前にホームランを打たれて、これだけ話題になるのは私だけだと思う」と福島さんは笑った。
長嶋さんは2004年に脳梗塞で倒れたが、リハビリを続け、東京五輪の開会式で聖火ランナーを務め、球場でバッティング指導も行ってきた。福島さんは「長嶋さんは今も野球に熱意を持っていて、それは生きるエネルギーになる。いるだけで絵になる人なので、また元気な姿を見せてほしい」と話した。










