22. 埼玉学園大学(4)
『実質株主』把握する法整備を

米山 徹幸氏(よねやま・てつゆき)48年生まれ。慶応義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。81年大和証券(国際部)入社。大和インベスター・リレーションズ、大和総研経営戦略研究所客員研究員を経て、10年より現職。専門は企業情報論、国際証券市場論。近著に「21世紀の企業情報開示」(社会評論社)。
■名前載らない株主
企業の株主名簿には個人株主の名前が載るが、機関投資家の名前は載っていないのだ。
国内外の年金基金などが株式を保有している場合、多くは株主名簿には信託銀行などの名前があるにすぎない。株主名簿上は「常任代理人(カストディアン)」などの「名義人(ノミニー)」で掲載されている。その運用を担当している実質株主が誰かは分からないのだ。
そのため実態が分からず、憶測が憶測を呼びかねないケースも出てくる。例えば「SSBT・OD05・オムニバスアカウント・トリーティ」。米報道によると、この名前の背後には中国政府系ファンド(SWF)の存在が浮かび上がるというが、最近も多数の日本企業の大株主リストに載っているとして、全国紙や週刊誌で取り上げられ、大きな話題になった。
■先例をつくった米・英
このことは日本企業にとって一つの課題である。そのため、多くの企業で大株主の動向をチェックし、投資家訪問の候補選定や投資家による自社に対する見方を知るために、こうした実質株主の判明調査を行っている。
こうした調査は主に外国人株主(投資家)が対象だ。というのは、英米などでは株主(投資家)が自らの保有内容を開示する法的な仕組みが存在するからである。
米国の場合、連邦証券法に基づき、銀行や保険会社、年金基金、ミューチュアルファンド(投資信託)など一任運用資産が1億ドル(約80億円)以上の機関投資家は保有株式の明細をすべて書き込んだリポートを四半期ごとに米証券取引委員会(SEC)に提出している。この「様式13-F」の情報はSECのウェブサイトで、24時間、誰でも無料で入手できる。
また英国の2006年会社法793条は、公開会社に自社の株式所有を調査する権限、つまり「真の株主」を割り出す権限を与えている。各社とも自社の直前3年間の株式保有に利害があると信ずるだけの根拠があれば、国の内外を問わず「793条通知」と称する書面を発信できる。株式保有の有無や保有目的を問う書面で、即時の回答が求められる。また、当該株式の自己保有や、他人保有なども会社側に知らせなければならない。
これに応じない場合、各社は配当の停止や議決権の停止などの処置を取ることができる。株式の保管や事務を代行するカストディアンを意識した仕組みだ。回答は開示される。
投資家・株主に向けた情報(IR)をめぐる双方向のやり取りも、具体的な「顔」を持つ機関投資家の実名が明らかになり、誰でもアクセスできる開示データとなれば、企業の当事者の取り組みも気合が違うというものだ。もちろん、名前が明らかになる実質株主も同様だろう。
■日本は手つかず
日本はどうか。現在、機関投資家の株式保有に関して、英米のような法的な枠組みはない。言うまでもなく、運用側の論理を深く理解することは企業経営に市場を通じた緊張関係をもたらす。
企業の発信するIRについて、全米IR協会は「企業と金融コミュニティやその他のステークホルダー(利害関係者)との間に、最も効果的な双方向コミュニケーションを実現するための戦略的な経営責務である」と明言している。
昨年に起こった福島第1原発事故、やらせメール、飛ばしなど日本企業の情報開示に絡む問題は、どれも企業情報に対する信頼を大きく損なうものであった。
それだけに、情報を発信する企業と情報を受信する投資家との間に、緊張感を持ち込む構図が求められているといっていい。英米並みの「実質株主・投資家」を把握する法的な仕組みを用意したい。