親たちは動き始めた・ひきこもり第1部

1.母の悲鳴


 ■死んでくれたら

 「もう疲れちゃって。この子がいなかったら。いっそ死んでくれたら。そんなことを考えてしまう自分が、また、つらいんです」

 冷たい雨の降る昨年十月下旬、大宮市内の公民館に十人の母親たちが集まった。埼玉で生まれたひきこもりの子どもを持つ親たちで組織する「全国引きこもりKHJ親の会」(事務局・岩槻市)の一支部の月例会だ。

 この日が初参加だという高沢澄子さん(51)=仮名=は六年間ひきこもりを続けている二十三歳の長男のことを語り始めた。

 「育て方を間違ったのかなぁ。完ぺき主義で優しい子なんです。壁にぶつかると親を責めてばかり」

 周囲には十年以上、この問題で悩んできた母親もいる。「家庭内暴力がないならまだいいですよ」「うんと親を責める時期がありますが、それを乗り越えれば、たいしたことない」。口々に励ましやアドバイスがおくられる。

 会の責任者で、三十三歳の長男が十七年間こもり続けている母親が言葉をつないだ。

 「自宅が線路のすぐそばで、夜中に何度行ったり来たりしたことか。飛び込んだら、どんなに楽になるだろうと。自分ばかり責めてもつらくなりますよ」。その言葉を聞き、高沢さんは声を上げて泣き崩れた。

 

 ■全国へ広がる動き

 全国引きこもりKHJ親の会のKHJとは、長期のひきこもりに伴い発症する可能性のある強迫性神経障害(K)被害妄想(H)人格障害(J)の頭文字を取ったもの。

 KHJ親の会は昨年六月から本格的な活動を始めた。最初は県内の親のみを対象に、四十人にも満たない会員数だった。

 テレビや新聞で会が報道されると、全国から申し込みや相談が殺到。会員は半年もたたないうちに四百人を突破した。石川県、愛知県にも支部ができ、途中から全国組織に名称を変更した。

 公的な支援も民間企業の援助もない。会の連絡や文書の発行、月例会の開催など、すべて代表の奥山雅久さん(56)とひきこもりの子どもを持つ親や支援者で進めている。

 奥山さん自身、二十五歳になるひきこもりの長男がいる。家庭内暴力がひどいため別居、長男が自宅に住み、奥山さん夫婦はアパート暮らしだ。

 「高沢さん、居直った方がいいですよ。これも人生、これも家庭。テレビドラマに出てくるような幸せな家庭ばかりではない。まずはそこを受け入れること」

 

 ■若者の崩壊現象

 親の会は保健所や精神保健福祉センター、民間クリニックにもある。相談機関が組織したり、親たちが自主的に作ったりしている。多くは十数人の規模で、細々と続けてきた。

 親の会は親自身の心のケアや情報交換など、大きな役目を果たしてきた。KHJ親の会が既存の親の会と違うのは、親のメンタルケアにとどまらず、積極的にマスコミに顔を出し、行政にも実情を訴えている点だ。そこには動かざるを得ない状況があった。

 「次代を担う若者たちに崩壊現象が起きている。本来なら、国が本腰を上げて考える問題ではないか」。奥山さんは強い口調で指摘した。

(2001年1月15日掲載)

親たちは動き始めたindexへ  女・男・子ども〜家族〜indexへ   埼玉新聞indexへ


ニュースの詳細は埼玉新聞でどうぞ。購読申し込みは0120-633-888

saitama-np.co.jpの記事・写真の無断転載を禁じます。
日本の著作権法並びに 国際条約により保護されています。
Copyright 2001 The Saitama Shimbun