子ども虐待 家族間暴力の現場から 第5部(上) 15

児童福祉司の配置
国際的に極めて貧困


 「日本の児童福祉の貧困さと、虐待予防・防止システムの欠陥を露呈した」―大阪府岸和田市の長男虐待事件について、こう厳しく語るのは関西学院大の野田正彰教授(精神科医)だ。野田氏は朝日新聞社の月刊誌「論座」四月号でも、岸和田事件についてのメディアの報じ方にも触れて同様の指摘をしている。

 今国会でどこまで法制度が改正されるか不透明な部分はあるが、現在の日本の「虐待予防・防止・困難を抱えた家族への支援・被虐待児が青年期を迎えるまでの自立支援」という全体フレームは、国際基準からすれば極めて低い水準であることに大差はない。

 それでも高度な専門性に基づく俊敏で的確な行動、十数機関に及ぶ関係機関をつなぎ、コーディネートしていく「中核」は、今の制度では児童相談所の児童福祉司=ソーシャルワーカーしかいない。

 ところが、その専門職の配置が「実にお寒い状態」であることを欧米各国との比較で国会審議で指摘したのが、二月二十七日の衆院青少年問題特別委に参考人の一人として招かれた大阪大学大学院人間科学研究科助教授の西澤哲氏だ。

 米国ではCPS(チャイルド・プロテクト・サービス=子ども保護機関)と呼ばれる公的機関が、虐待の通報を受け子どもを保護し、調査を行った上で裁判所に送るまでの初期介入すべてを専門的に行う。CPSのソーシャルワーカーは「子ども一般人口二千五百人に一人」の割合で配置されている。

 これに対し日本は「子ども一般人口一万数千人に一人」とケタ違いの少なさ。しかも、厚生労働省が現在の行政指導に使っているのは地方交付税積算基礎人員としての「一般人口七万四千人に一人(二○○三年度基準)」というモノサシだけ。日本には子どもに特化した数字さえ、ない。

 総務省はこのほど、○四年度予算で新基準として「六万八千人に一人」まで拡大する方針を固めた。しかし、地方交付税には実際に自治体が何に使っているかを検証したり、使途目的“違反”があっても罰するシステムがない。自治体の長が交付を希望しなければ「絵に描いた餅」でしかないことは、現在の児童福祉司配置の実態が示している。

 ○三年度基準でみても、埼玉県は○三年五月現在で既に新基準の八十七人をはるかに上回る九十七人を配置している。だが、「子育て都市」とうたっているさいたま市は、現行基準の十四人をはるかに下回る十人しか配置していない。県と違い、同市に危機感があるとは到底思えない。

 いずれにしても国際比較では、さまざまな要保護児童相談にのる日本の児童福祉司に近いワーカーを「子ども人口九百人に一人」の割合で配置しているドイツなどに比べ「極めて貧困」(野田教授)だ。最も体制を整えていた大阪府でさえ今回のような事件は起きる。

 根本解決には、青特委で石田勝之議員が指摘したように「人口十万から十三万人に付き一人の児童福祉司配置」とされている今の児童福祉法施行令そのものを変えるしかない。同議員は二月十三日の衆院予算委でも同じ指摘をした。だが、坂口力厚労相は答弁で一切触れなかった。

 間もなく始まる防止法改正案の参院審議と児童福祉法改正案審議の後半戦取材では、関与について消極的な司法の問題を含め、この問題も追跡していく。

=第5部上編おわり=

 

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 (2004322日掲載)


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