子ども虐待 家族間暴力の現場から 第4部 

〜 評論でなく、行動を 〜
一昼夜の総力戦


 二○○○年四月二十六日、午後三時に開催された衆議院青少年問題特別委員会理事懇談会で提示された与党三党の「児童虐待防止法案(骨子)」をめぐる協議では、近づく解散・総選挙前に成立させることを優先することで各党が一致。至急条文化して全党派一致で議員立法として成立させる、とおおむね合意した。

 協議を一度中断し、各党が「骨子」を持ち帰り検討。翌日午前八時三十分からの再開協議で、それぞれの修正案をすり合わせることになった。

 議員立法でついに、児童福祉法の特別法「児童虐待防止法」が誕生する。

 九九年夏以来二年越しで審議を重ね、議員自らも独自に勉強を積み、児童養護施設や児童相談所など虐待された子どもを守る最前線の現場も委員会視察してきた。そうした行動の中で次第に共通認識となった”今求められている法整備の姿“にはほど遠い内容になるのは間違いない。

 伝統的な「家族神話」や「家族フレーム」を支えてきた「親権」規定についても、民法改正は自民党―最高裁―法務省―厚生省(当時)の防衛ラインによって「時期尚早」とされ実現できないことは明らかだった(連載第4部5、6、8回参照)。

 だが、そうした不十分な内容の新法・法整備であっても、「虐待」が明文規定された初の法律がこの国に生まれる―その意義は大きい。しかも、あと十七時間以内なら修正させることもできる。

 時間との闘い。迷っている余裕はなかった。

 与党案骨子の内容は、直ちに首都圏を中心とした精神科医、弁護士、児童福祉司、心理職、研究者、ジャーナリスト、児童養護施設職員など虐待問題の専門家や現場関係者たちに届けられた。

 「少しでも実効性ある法案にしたい。明朝午前八時半までなら修正案を理事懇談会のテーブルに乗せることができます。ぜひ知恵を貸してください」

 電子メールで、電話で、ファクスで。あらゆる方法を駆使して双方向に情報が駆け巡った。

 今必要なのは分析や評論ではない。それは後で行えばいい。求められたのは迅速かつ的確な短期決戦のアクションだった。

 冷静に、しかし一刻を争う。虐待の疑いがある―との通告から四十八時間以内に子どもの安全を目視確認することを二年前に自主的に決め、実行していた埼玉県の児童相談所の関係者たちも動いた。

 「なんだか虐待対応と似ているな」。誰もがそう感じた。

 前年十二月、宇都宮市で開かれた日本子どもの虐待防止研究会(JaSPCAN)第五回学術集会で「子ども虐待におけるマスコミの役割を考える」分科会を主宰したフリージャーナリスト椎名篤子さんも情報を受け取った一人だ。

 議員らに立法を動機付けする役割を果たした漫画『凍りついた瞳(め)』(原作『親になるほど難しいことはない』=九三年講談社刊)の作者。漫画は九四年にレディースコミック『YOU』(集英社)で連載され、大きな反響を呼んだ。八五年以来、変わることなく今も子ども虐待の問題を追い続ける。

 「私の原点となったのは、ある女性児童精神科医の言葉です。厚生省が虐待対策に全く動いていない時代に、『虐待死した子どもの屍(しかばね)を厚生省の門前に積んで見せてやる』と唇をかんだ。私たちみんなの力でここまで動かしたんですよね」

 

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 (2004115日掲載)


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