子ども虐待 家族間暴力の現場から 第3部(番外編II) 12

5点セットの武器
3年後には見直し


 衆院審議の最終局面を迎えようとしていた四月十九日、自民、公明、保守の与党三党は、児童虐待防止法与党案提出への最終調整を図る検討会を開いた。

 解散を目前に控えた衆院で、

法案を「全会一致で可決」する

とは、「与党三党内での一致=特別委員会委員長提出」の法案を

つくることを意味する。与党内では「最も突出した」(与党議員)民法改正にまで踏み込んだ法案

を準備していた公明と、依然として法案の条文を明らかにしない自民とのすり合わせが最終課題だった。

 公明は与党検討会前日の十八日、衆参両院の関係議員で「与党案」に向けた協議を行った。

 「いいものを作ろうと、一生懸命勉強してきたが、法案内容に

ついて、(自民の)国対筋が精査しているから…(条文がどこまで削られるか分からない)」「公明の法案に盛り込んだ民法改正は、明日の与党プロジェクトチームの検討会で駄目になるだろう…」「野党の民主がいつ法案を公表するかが問題。遅れを取ってはだめだ」などの発言があった。

 十九日の与党検討会の席上、厚生省、警察庁、法務省刑事・民事局、文部省の四省庁が与党に提出した1法形式2児童虐待の定義3立ち入り調査権−など十四項目の詳細な意見の一覧表が配布された。ほとんどの項目がこれまでの通達の範囲の内容にとどまっていた。

 検討会後に会見した与党筆頭理事の自民議員は「公明にしてみればcこんなに狭い範囲じゃだめだdとなる。うちはcこんなに広い範囲じゃ…dとなるなあ」と苦しい発言をした。

 一方の野党側。民主は独自法案を公表するタイミングを図っていた。社民は、水面下での各党の動きをNPOなど市民団体に情報として伝え、民間の立場からの最終アピールを要請した。

 民主は二十日の青少年問題特別委で行われた四人の民間参考人に対する質疑の中で、満を持して「民主党法案の骨格」を公表。「単独でも提出する」との構えも示唆して、自民にプレッシャーを掛けた。この後、自民が「とんでもない異例のスピードアップ」(与党議員)を見せた。

 二十六日正午から開かれた同特別委理事懇談会の席上、自民は「与党法案の骨子」を提示。断続的に協議が行われ、「委員長提案骨子」とし、与野党共同提案することで大筋、合意した。

 しかし、民法に基づいて「親権者が児童を懲戒する場合は、児童虐待をしないよう適切に行使しなければならない」などいくつかの条文に、野党側が「虐待を禁止する法の趣旨に反する」として反発し削除を要求。翌日に再度、協議することに。同日夜から翌二十七日朝にかけて、関係者は「ほぼ不眠状態」の攻防を繰り広げた。理事議員の元にはNPO、個人などから「より実効性のある法案に」との意見が続々とファクス、電子メールで届いた。重点を絞り、一歩でも実効性を担保できる条文に近づけようと粘った。徹夜で作成された書面だった。

 五月十七日午後、参院本会議で児童虐待防止法が成立。

 「児童虐待」の定義に1加害者に「きょうだい」が入っていない2十八、十九歳の子どもへの性的虐待などがカバーされない3性的虐待を「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳概念に反する」という最高裁判例(一九五一年五月十日)のみで法文上に規定のない「わいせつ」概念で規定したのでは狭すぎる−など不十分な個所は多い。

 関係者の多くは、既に三年後の改正を視野に入れ、準備に入った。与野党を問わず、法制定に心を砕いた数少ない議員たちは、総選挙の真っただ中にいる。

 今回の立法は、さまざまな制約から、条文だけでなく委員長の「提案理由」、五条の「付則」、参院法務委員会での五項目「付帯決議」、同法務委で提出者である衆院特別委理事が答弁した「議事録」の「五点セット」が全容だ。

 官民を問わず、子ども虐待にかかわる大人は、このすべてを身に付けねばならない。今後、三年間、子どもを守る「新しい武器」となるのは間違いないからだ。

小宮 純一

=第三部終わり

 

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 (200064日掲載)


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