子ども虐待 家族間暴力の現場から 第3部(番外編I) 

「パンク」発言の深層
密室協議を許すな


 児童相談所が受理した虐待通告のすべてを通告から四十八時間以内に児童福祉司(ソーシャルワーカー)が目視確認する−この「埼玉方式」を実行するのは、並大抵のことではない。

 対象世帯のアウトラインを把握し、訪問チーム(児童福祉司、市町村保健センター保健婦、市町村児童担当、社会福祉主事など)を編成。確認を翌週に持ち越さないためにはスタート段階から市町村の担当者や福祉事務所と児童相談所が一緒に動き、共通認識を持つことが求められる。それぞれの機能をフル回転させ、1=任意調査か立ち入り調査か、2=緊急一時保護が必要かどうか−を判断し、調査後には両者が合同で意見交換する実務担当者による事例対策会議(ケースカンファレンス)を行う。この後、児童相談所は「診断・処遇会議」にその結果を反映させる。

 “カネも人も限られた状態”で連携を実行するためには、「従来型」のネットワークでは客観性の担保力に欠ける−と判断、組織の改編をも決めた。まず、厚生省がことし三月に作成した「児童虐待対応フロー図」を基に、独自の埼玉県版「四十八時間対応フローチャート」を作成した。相談所内部を虐待対応型に改編、来所相談部門を一本化し、地区担当部門を二チームに分割、グループ制を取った。一方、それでも法定数に不足する児童福祉司の増員を県の人事担当部に強く要請した。

 広域を受け持つ県中央児童相談所は、これまで一括していた地域連携ネットワーク区分を管内の三保健所ごとに細分化した。キーマン同士の人間関係をより緊密にしておく必要があるからだ。

 成果は現れている。一九九八年度に全県で三百六十九件だった虐待通告件数は、九九年度上半期だけで三百五十二件に達した。匿名通告で該当世帯が特定できないケース以外のすべてに「四十八時間以内確認」が実施された。今のところ死亡事例はゼロだ。

 だが、問題も露呈した。地区担当児童福祉司の残業量は増え、精神的負担は「極限状態で、仕事の積み残しが増えた」(今井所長)。児童養護施設は「満杯で新規入所の余地はない」(同)。これは二カ所ある一時保護所(相談所に併設)も同じだ。

 今後も虐待通告が増え続けると、児童相談所が持つ虐待対応以外の養護児童、非行児童、障害児童の入所や通所、自立支援などの業務は「ストップする可能性もある」(同)。市町村の現場では、「これは本来、児童相談所がやるべき業務へのサービスではないか」との不満の声もくすぶる。

 だからこそ、十一月十八日の衆院青少年問題に関する特別委員会(石田勝之委員長)の審議で「このままでは児童相談所はパンクするのではないか」と質問された今井所長は「パンクすると思います」と答えた。

 また同所長は、1=虐待の定義規定がない、2=福祉事務所長、児童相談所長の「取るべき措置」に虐待通告への即時対応義務がない、3=「親権喪失宣告」以前に緩やかな「親権停止宣告」が必要−など、七項目を挙げて、厚生省が通達などで現場に要求する虐待への対応を支える規定が欠如している「現行児童福祉法は欠陥」とも指摘した。

 この発言を「公務員にあるまじき答弁」などとする声も厚生省内部にはあった。さらに今井所長本人は否定するが、十七項目にわたる「虐待防止のための名文規定案」(新法プラン)、新法が不可能な場合の現行児童福祉法改正案も準備していたが、全国児童相談所長会代表の扱いとの関係で発言できなかった−との情報もある。

 同日の衆院委員会審議で各省庁は、前日の厚生省主催「児童虐待対策協議会」同様、過去と現状について説明しただけだった。特に厚生省は、政令で人口十万人−十三万人に一人とされている児童福祉司の増員を自治省に要求している、と説明した以外は「法改正の必要はない」との姿勢を崩さず議員らの強い批判を浴びた。

 この一カ月間、水面下では、六会派による立法案作成や、非公開「勉強会」、党内ヒアリング、ロビー活動が続いた。公明党は埼玉県をはじめ議員による児童相談所の全国調査も行った。

 今回は沈黙していた全国児童相談所長会も来年六月ごろをめどに立法提言をまとめる動きを見せている。日弁連有志、日本社会福祉士会(青木孝志会長)もそれぞれ要望書を提出した。これらの“第一着地点”が十二月十日の「児童虐待の防止に関する国会委員会決議」だった。

 来年一月下旬に招集される次期通常国会では、省庁再編の動きや自自公政権の動きと絡んで、衆院青特委は廃止されるのではないか−との観測もあり、事態は予断を許さない。既に衆院厚生委員会を舞台とした場合を想定した攻防のシミュレーションをつくっている会派もある。密室協議を許さず、法改正まで視野に入れた虐待防止への歩みを止めてはならない。

 =第3部番外編終わり=

 

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 (19991220日掲載)


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