子ども虐待 家族間暴力の現場から 第3部 

北風の中
パジャマ姿のままで


 その子どもはパジャマ姿のまま、暮れに向かい冷たくなった北風をよけるように、二台の自動販売機の間にうずくまっていたという。

 十一月十日午前十時すぎ、ケイちゃん(6つ)は、通行人に発見され、所轄の警察署に保護された。顔面とおしりに皮下出血があった。

 「ママとパパがシャベルでぶった。いつも棒やシャベルでぶつから怖い。ママから“出ていけ”と言われた。きのうの夜は眠っていない。きのうから何にも食べていなくておなかがぺこぺこ」

 署員の聞き取りにケイちゃんはそう答えた。所轄署は事情聴取を終えた母親にケイちゃんを引き取らせた後、虐待の疑いがあるとの通告(児童福祉法第二五条)を書面で児童相談所に提出した。

 同月二十日夜、ケイちゃんは下半身裸のまま自宅マンションのベランダに出された。窓に内側からかぎを掛けると、家族はケイちゃんをそのままにして外出した。

 ケイちゃんはベランダ伝いに隣家へ移動し、ベランダでウンチをした後、無締まりの窓から部屋に入り、ホットカーペットの下にもぐり込むと朝まで寝込んでしまった。

 二十一日、隣家の主婦から「虐待ではないか」との通報が児童相談所に入った。相談所は所轄署と協議し、今後一一〇番通報が入った場合には、警察がケイちゃんを一時保護する方針を決定。その旨を主婦にも連絡し、協力を要請した。主婦は「何とか母親に話をして、保護できる方向にしたい」と答えた。

 二十二日、母親は児童相談所に電話を入れ「虐待といわれても仕方ないような体罰はあったが、警察の指摘でやめるようにしている。なのに強制保護というのは納得がいかない」と抗議した。相談所は「その通りなら保護などはしない。でも、子育てを援助することはできる」と伝えた。

 二十八日。ケイちゃんが自宅の板戸を壊したことで、母親は朝から怒り続けた。この日は、四カ月後には小学校に入学するケイちゃんの就学前健診の最終日だったが、母親は「罰だから連れていかない」と言うのを、隣家の主婦が強引に説得した。主婦はケイちゃんと母親を自分の車に乗せ、健診に連れていった。

 十二月十二日午前十一時四十分、パジャマ姿のケイちゃんはスーパーで保護され、児童相談所からの連絡で母親が引き取った。この日の午後十時すぎ、室内の物音がひどく、子どもの泣き声と「お父さんごめんなさい」という叫び声も聞こえる、との一一〇番通報が入った。

 駆けつけた警察官に対し、母親は「体罰にも理由がある。児童相談所とも相談している」と言った。父親は「子どもの言い分だけを一方的に聞くな。体罰をこれ以上加えたら逮捕するというなら、こちらは裁判に訴える」と詰め寄った。警察はひとまず引き揚げた。

 ケイちゃんが重いやけどで入院するのは、この一週間後だ。

 子ども虐待への対応をめぐり、児童福祉法は児童相談所に極めて強い権限を与えている。

 その第一段階は児童福祉司による「在宅指導」(児童福祉法二七条一項二号)だが、そうした援助だけでは、子どもの命や心身の危険が生じると判断した場合には、親子を分離できる強い権限を児童相談所は行使できる。中でも、「伝家の宝刀」といわれる「親権喪失宣告」の申し立て(同法三三条の六)は、最強の救済方法だ。

 家族に対する公権力の不当な介入は戒められねばならないが、「親権」の名の下に子どもの身体や命が危険にさらされている場合には、迅速かつ緊急に子どもを保護することが必要だ。しかし、現行児童福祉法や民法では虐待防止に限界がある−との指摘は強い。

 先の第百四十五通常国会で衆院に新設された青少年問題に関する特別委員会(石田勝之委員長、委員三十五人)は、この七、八月、子ども虐待について集中的に論議した。

 民主党内では虐待防止の法制化を視野に入れた勉強会などの動きがある。また、「子どもの権利条約」に定められた、1=子どもが権利行使の主体である、2=子どもの意見表明権を明確化する−などを柱とした「子ども基本法(仮称)」を次期臨時国会に超党派の議員立法で提出してはどうか、との意見も複数の議員から出ている。

 連載第三部は、虐待されている子どもの命と体、そして心の安全を確保するための「親子分離」をめぐって、司法判断が求められたケースを追う。併せて、現行法制度の問題点や、司法や捜査の内部で、子ども虐待がどう受け止められているかについても報告する。

 (登場人物は仮名。プライバシー保護のため、ドキュメント部分は一部構成を変えてあります)

 小宮 純一

 

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 (1999920日掲載)


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