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防災シンポジウムin松伏

効果的な情報伝達手段を考える

2016.8.1

近年、気候変動に起因すると思われる「予想を超えた自然災害」が各地で多発。これまで以上に防災情報の迅速かつ確実な伝達が求められている。北葛飾郡松伏町においても平成27年9月の台風18号で総雨量350ミリを超える約100年に1度程度の豪雨により、約300戸の浸水被害が発生した。国や県、市町村といった自治体をはじめ、報道機関、学識経験者などの発信主体は、いかにして情報を伝えるべきか。6月25日、同町中央公民館(田園ホール・エローラ)で「防災シンポジウムin松伏」が開催され、災害に強いまちづくりやひとづくりについて考えた。

主催/防災シンポジウム実行委員会、一般財団法人自治総合センター
後援/総務省、国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所、埼玉県、松伏町、松伏町水防団、埼玉県河川協会、埼玉県水防管理団体連合会、公益社団法人日本河川協会、彩の川研究会
協力/高岡電気工業
※このシンポジウムは全国モーターボート競走施行者協議会から拠出金を受けて実施しました。

基調講演

地形の観察から考える水防災

知花 武佳氏

東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻 准教授

知花武佳氏

普段から防災のイメージを

地形が変われば、災害の種類も大きく変わります。まず、水はどこから来るか分からないということを認識すべきです。

堤防には、長い年月をかけて土砂がたい積した「自然堤防」と人の手によって造られた「人工堤防」に分かれます。人工堤防はメンテナンスを続けないと劣化します。自然堤防はメンテナンスは不要ですが、形状や高さなど質がばらばらなんです。普段、私たちの生活を守ってくれる堤防も、いざ壊れてしまうと逆に凶器にもなり兼ねない「もろ刃の剣」だということを肝に銘じていただきたい。

そこで大切なのが、過去の水害に学び、地形を細かく見るということ。ハザードマップは、自治体のホームページなどで確認できますが、どこで、どの川が、どう切れたのかによってさまざまなパターンが想定されます。

現代の私たちは昔の人が住まなかったような場所に住んでいます。地形もずいぶん変わりました。ゲリラ豪雨など想定外の雨も降ります。どこが何に対して危険なのかは、もう想像力の範ちゅうなのです。

もし夜中に大雨が降ったら…、大地震が起こったら…。私自身、(地震発生後など)1分後、5分後に何をしよう、1時間後に何をしようと普段からメモに書き出してイメージトレーニングするようにしています。

その意味で、皆さんにも一度、自転車で自分の暮らす地域を回ってみることをお薦めします。ペダルをこぐ重さで、道路の傾斜や地形などを肌で感じることができるからです。

どこが何に対して危険なのか、災害時にどう行動するか、想像力を働かせて暮らすことが大切ですし、普段から防災について家族で話し合うことが大切なんです。


気象災害から身を守る

井田 寛子氏

気象予報士・キャスター、筑波大学非常勤講師

井田寛子氏

日々の情報を有効活用して

2014年、ニューヨークで国連気候サミットが開かれ、世界中のキャスター(気象予報士)が気候変動について議論しました。

そこで2050年の気象予想を日本も発表したのですが、このままのペースで地球温暖化が進むと、お彼岸(9月23日ころ)になっても「東京は35度、真夏日は連続50日、熱帯夜は60日以上、熱中症など暑さの影響で亡くなる人は6500人超。日本列島にスーパー台風が接近し、上陸時は風速65メートル、高潮は5メートルから、所によっては10メートルにも及ぶ」なんてことが現実味を帯びてきます。ある地域では大雨でも、別の地域では水不足といった極端な現象がますます増えてくるでしょう。

これからの時期は竜巻や雷雨などに特に注意が必要。いずれも局地的、かつ短時間に発生しますので、その予測はほぼ不可能です。ただ、気象庁のホームページや携帯サイトで雨雲の動きをかなり細かく見ることができますし、自治体の防災情報メール配信サービスなども登録しておくと便利です。

昨年9月の関東東北豪雨で発生したような河川のはん濫は、ある程度事前に察知できます。テレビ画面に出る文字情報などに注意し、早めの行動を心掛けることが大切です。

そもそも大雨による浸水被害を出さないために、ダムのような水がめを造ったり、堤防を築いたりするハード対策はもちろんですが、私たち住民も、とにかく事前にいろいろな情報を積極的に入手し、万が一に備える心構え(ソフト対策)が欠かせません。日々の気象情報では、そのための情報をたくさん発信していますので、有効活用していただきたいと思います。

パネルディスカッション

防災情報をいかに伝えるか

パネリスト

会田重雄氏

松伏町長

会田重雄氏

町民への情報伝達を強化

井田寛子氏

気象予報士・キャスター

井田寛子氏

周囲変化に敏感になって

伊藤みゆき氏

気象予報士・キャスター

伊藤みゆき氏

ラジオの情報に安心感

知花武佳氏

東大准教授

知花武佳氏

最後に判断するのは自分

金澤裕勝氏

江戸川河川事務所長

金澤裕勝氏

迅速かつ正確な伝達を

常山修治氏

県土整備部課長

常山修治氏

情報メールを県民に提供

岩谷忠幸氏

NPO法人気象キャスターネットワーク副代表

岩谷忠幸氏

岩谷 私たち気象キャスターネットワークは、全国約300人の気象キャスターが協力して、防災や地球環境などの教育活動を実施しています。既に全国4千校以上を回っておりますが、最近はタブレット端末を使って、ハザードマップを見ながら自分たちで危険な場所を探してもらう教育もしています。

災害は家にいるときだけでなく、登下校や外で遊んでいるときに起こる可能性があります。「自分の命は自分で守ってほしい」との思いから、子どもたちを中心に活動しています。

井田さんの講演にもありましたが、「特別警報」や「竜巻注意情報」など、気象情報にはたくさんキーワードが出てきます。ラジオ番組で気象情報を伝えている伊藤さんは、声だけで正確な情報を伝えなくてはならない。情報を発信する上で何か工夫していることはありますか。

伊藤 私はNHKラジオで気象情報を担当しています。天気予報では視覚に訴えることができませんので、言葉という一つの手段でしか情報を伝えられません。例えば、「津波注意報」が出ると、それが出ている間はずっと津波への注意を呼びかけなければならない。また、言い間違えてしまうと、それだけで誤った情報になってしまうので細心の注意を払っています。

限られた放送時間の中できちんと理解してもらえるよう、言葉を厳選して伝えるように工夫しています。

ラジオは(テレビと違って)リスナー一人一人に話しかけるように伝えますから、聴いている方により安心感を与えられます。停電などの緊急時にいつもの番組が始まれば、暗闇の中だったとしても安心につながるのではと思います。

岩谷 行政の立場から会田町長、町の取り組みをお聞かせください。

会田 昨年9月の関東東北豪雨で、町内で300棟余りの床下浸水、床上浸水が発生してしまいました。平成25年9月には、大川戸地区から築比地地区にかけて竜巻が通過し、全壊、大規模半壊などを含めて、100件を超える建物被害が発生しております。

現在、町では地域防災計画を策定し、町民への情報伝達手段を強化。防災行政無線を基本にホームページやメール(マップーメール)、ツイッター配信など補完的手段の整備にも努めています。防災行政無線は現在、デジタル化を進めており、今年度完了予定です。これにより、家の中にいたとしても聞き取りやすさはさらに向上するでしょう。

防災など情報発信のタイミングは、後で「結果的に何もなかったじゃないか」と言われるかもしれませんが、少々オーバー気味に情報を出すことも重要だと思います。何事も「人命第一」で考えています。

岩谷 江戸川、中川を管理する国土交通省江戸川河川事務所の金澤所長、このほど発表した「水防災意識社会再構築ビジョン」とは何ですか。

金澤 昨年の関東東北豪雨では鬼怒川の堤防が決壊し、(決壊付近は)ことごとく流されてしまいました。鬼怒川のような大河川が決壊すると、はん濫する水の量はとてつもない。昨年の場合も常総市(茨城県)の約3分の1が浸水、市役所も孤立してしまいました。浸かった水を全部解消するまでに10日かかり、約4300人の市民の方が取り残される事態に陥りました。

あのとき、中川、綾瀬川も、はん濫危険水位を超えるかなり危険な状況でした。もし、あの線状降水帯がもう少し長く留まっていたら、鬼怒川のような状況になっていたかもしれません。

こういった経験を踏まえ、国土交通省では「水防災意識社会再構築ビジョン」を策定。仮に堤防を越えるような河川水位になったとしても、少しでも時間稼ぎができるよう、堤防の上の部分をアスファルトで覆ったり、法尻(のりじり)を補強するなどのハード対策を強化します。加えて、(ソフト対策として)河川の水位など気象情報をいかに迅速かつ正確に伝え、避難行動に結びつけるか、さまざなな手段について検討を重ねているところです。

岩谷 常山課長、埼玉県では川の防災情報に関する情報配信を開始しましたね。

常山 県では洪水や土砂災害の避難の際に役立つ「川の防災情報メール」を県民に提供しています。身近な河川の水位情報や周辺の土砂災害の危険度をスマートフォンなどの携帯電話で受け取ることができるものです。このメールでは、土砂災害警戒情報も受け取れますので非常に便利。県のホームページに登録の仕方などが出ていますので、ぜひ活用していただきたく思います。

「川の防災情報メール」の登録ができる県庁のHP

岩谷 川の上流で降る雨と都市部で局地的に降る雨でその特徴が全く違うと思いますが、井田さん、雨の降り方などで知っておくべきことはありますか。

井田 近年の雨の特徴としては、ものすごく局地的で範囲が狭い。とにかく予報が難しいんです。正確にどの辺りでどれ位の雨がいつ降るのかは伝えられません。なので、防災に対する皆さんの感覚がとても大事。雨の音や土の臭いなど周りの変化に敏感になっていただきたいと思います。どういう行動をしたら良いのか、そこまで想像力を働かせることが大切なんです。

岩谷 伊藤さん、車の運転中はラジオが唯一の情報ですね。

伊藤 ドライバーの方にはまず、私たちの言葉を映像で頭に思い浮かべるようにしてほしいですね。私たち伝える側もできるだけ(雨雲の位置などを)国道4号線沿いとか、東北自動車道沿いとか、地図上で変換しやすい言葉を選ぶよう心掛けています。

岩谷 先ほどの講演で、地元の地形を観察することがとても大切だというお話がありました。知花准教授、実際に住民が避難行動につなげるためには、何が必要ですか。

知花 一番大事なのは、自分の周りのことは自分が一番よく知っているということ。事前にさまざまな情報が出てくると、どんどんオオカミ少年のように「また空振りか、また空振りか」となり兼ねない。ですが、最後に判断するのは自分自身。(広範囲ではなく)自分の暮らす地域だけで良いのでしっかりと状況(地形など)を把握しておいてほしいですね。

岩谷 会田町長は、長年、ここ松伏町で生まれ育っておりますが、昔の松伏町はどんな風景でしたか。そして、これから、どういう防災が必要だと思いますか。

会田 会場(エローラ)のある地域もそうですが、市街化区域のほとんどが田んぼ。まさに「日本の原風景」といった感じでした。道路はくねくね曲がり、堀は澄みわたり、エビガニやアメリカザリガニなどたくさんの生物が生息していましたね。

現在は南部地域を中心にたくさんの住宅が並び、若い世帯も増えました。今後は、市内中心部を国道(東埼玉道路)が開通する予定で、東西に走る浦和野田線と併せて、道路網の整備に努めます。交通インフラを利用した新しい町づくりが地域防災にとっても非常に重要だと思います。

今日、このシンポジウムを当町で開催し、災害対応の難しさや情報発信の大切さを改めて実感しました。同時に、知花准教授も言われた通り、最後は本人が正しい情報を得るために努力することが非常に大切であると気付かされました。

岩谷 井田さん、テレビで気象情報を伝える立場として今日の感想はいかがですか。

井田 会場の皆さんも改めて実感されたと思いますが、現場でさまざまな対応をされる国や県の職員の皆さま、災害がどういった要因で起こり得るのかを日々研究される研究者の皆さま、住民に避難勧告、指示を出す地元自治体の皆さま、そして、伊藤さんや私のようなメディア関係者。どれ一つが欠けても住民の命は守れないということを強く感じました。

住民の方に「どう行動してください」とか、そこまでは伝えられないので、いかに正確に分かりやすい情報を伝えるかということを心掛けていきたいと思います。その先の皆さんの行動は自分自身に任されています。情報は受け身ではなく、何が大切なのかを皆さん自身で取りにいくことを、ぜひ忘れないでください。

岩谷 伊藤さんはいかがですか。

伊藤 先ほど、井田さんも言われたように、今日、色々な立場の方から話を聞いて、皆さんも災害と地形の関係性やテレビとラジオの情報発信の違いなどについて興味を持たれたかと思います。ご来場の皆さまはもちろん、今日来られなかったご家族、ご友人の方にも「こんな面白い話を聞いたよ」と、ぜひ伝えていただきたいですね。

岩谷 そうですね。知花准教授、本日の感想をお願いします。

知花 私は今回、自転車で松伏町内を色々調査して回るまで、果たして田んぼと自然堤防が分かったところで、それ以外何かやることはあるのかなと不安もありました(笑)。ですが、実際よく見てみると、地形以外にも歴史的に貴重な史跡など面白い場所がたくさん発見できました。町の歴史に関する本も読みましたよ。

皆さんも、改めて自分の暮らす地域をゆっくり歩いていただければきっと新たな発見があるはずですし、それが郷土愛や地域防災につながってくれたらうれしいですね。

岩谷 金澤所長はいかがですか。

金澤 本日のシンポジウムに参加された方は、既に防災意識が高いと思いますし、この話を聞いて、もう防災のプロ≠ノなったと思います。今回をきっかけに、防災に興味のある方がどんそん増えていくことを期待しています。

岩谷 気象予報にはさまざなな情報が含まれていて、それをいかに住民に伝えるか(伝わるか)ということが非常に難しい課題であることを感じました。実際に避難行動に移す際は、若者であれば比較的楽ですが、お年寄りとなれば大変な局面も生まれてきます。

松伏町の人口3万人のうち8千人が65才以上。現在は全体の約26パーセントですが、この先10年後は果たしてどうか。今、元気な65才も10年後は75才。同じように動けるかと言ったら正直不安が残ります。現在、町の出生率は1・05と、全国平均の1・4を下回っています。今後、急激に進むであろう高齢化に歯止めをかけ、本当の意味で地域の防災力を上げていくには、情報発信力の強化と共に若者の定住化が不可欠であることも忘れてはなりません。

本日は、どうもありがとうございました。

多彩な催しも行われました!

見事な歌声を披露した松伏高校合唱部のオープニングセレモニー

音楽のまちづくりを進める同町を代表して、見事な歌声を披露した松伏高校合唱部のウエルカムコンサート

江戸川河川事務所の排水ポンプ車も展示された

江戸川河川事務所の排水ポンプ車も展示された

監視カメラなど最新の防災システムも大きな関心を集めた(協力=高岡電気工業)

監視カメラなど最新の防災システムも大きな関心を集めた(協力=高岡電気工業)

総合司会を務めた気象予報士・キャスターの池田未来さん

総合司会を務めた気象予報士・キャスターの池田未来さん

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