審査総評

今回で31回を迎えた埼玉森林フォトコンテストは、応募点数409点と昨年の応募点数を16パーセントほど下回った。数年来、全国各地で新型コロナウイルス感染症拡大で不要不急の外出を控えるよう求められたり、人の集まる行事やイベント等の中止、移動の自粛などの事態が続いている。このような状況から応募点数がかなり減ると思われていたが、わずかな減少で済んだのは幸いなことであった。これも関係者の努力のたまものと感謝申し上げたい。また、一昨年は入選者の平均年齢が70歳であったのが、昨年に続き59歳と若返っていて、初入選者も6名になっており、時代の変化を感じさせる。

さて、今年の作品傾向については昨年同様、祭りやイベントなどをテーマにした作品は少ない状況であった。しかし、四季ごとの美しい森林風景や、市民が「森の自然」を楽しんでいるようなシーンを撮影した作品が多く寄せられ、森林(もり)との関わりがいかに深いかを改めて感じさせるコンテスト内容となった。

なお、ここ数年の傾向として入選作品の中に、タイトル名が作品の内容に合わない事例がいくつか見受けられたことから、作品のタイトル付けにはさらなる「創意工夫」をお願いしたい。

優秀作品

特選・埼玉県知事賞

「千本旗の参道」

「千本旗の参道」

撮影地:秩父市

撮影者:村上勇さん(深谷市)

城峰神社例大祭定番の「千本旗」が両脇に飾られた参道。その参道を家族揃ってのお参りだろうか、乳飲み子を抱き、よちよち歩きの幼児を伴っての参拝風景である。うっそうと林立するスギ並木の間から日の光が、スポットライトの様に家族に注ぎ、彼らを浮かび上がらせている。その光の中のから、子供らを気遣いながら歩を進める夫婦の愛情あふれる様が直に伝わってくる。シチュエーション、シャッターチャンスとも非の打ち所がない作品である。

準特選・埼玉県緑化推進委員会賞

「緑の景色」

「緑の景色」

撮影地:長瀞町(宝登山)

撮影者:馬場歩さん(上尾市)

新緑とオレンジ色に咲き乱れるヤマツツジ、そして青味を帯びた遠景の山々・・・どれもこの時期ならではの美しい取り合わせである。上方から垂れ下がる新葉、その下に佇む赤い帽子の親子連れ。全体の配色、構図、いずれをとってもバランス良くまとめられており、見る人の目を和ませてくれる早春の一コマである。

準特選・埼玉新聞社賞

「浮いて楽しむイチョウ」

「浮いて楽しむイチョウ」

撮影地:川越市

撮影者:船井友彦さん(兵庫県伊丹市)

目にしみるような青空と、今を盛りに色づくイチョウの黄葉が美しい。そのイチョウを背景に飛び交う男女の姿がシュールで、「エッ」と思わせる不思議なスナップ写真である。撮影者の「合成なしのセルフポートレート浮遊写真」というコメントで納得がいった。背景になる場所を選び、幾度となく挑戦し、意表を突く映像を追求する撮影者のひたむきな思いが伝わってくる。

優秀賞・ダイドードリンコ賞

「浮いて楽しむイチョウ」

「新緑の光舞台」

撮影地:入間市

撮影者:山口昇さん(入間市)

上から伸びるカツラの新葉、そして周囲の新緑の木々を写し込む水面。さらに中央やや下部分には、光が当たった若草色の小さな盛土があり、そこには一人の女性が手をかざして立っている。タイトル通りの「新緑の光舞台」で何かを演じているように見える。この季節ならではの幻想的な世界を上手にまとめた。

優秀賞・埼玉りそな銀行賞

「見守る」

「見守る」

撮影地:秩父市

撮影者:岩間秀朗さん(秩父市)

秩父湖の奥にある大除沢の不動滝は、規模は小さいが秩父を代表する滝の一つである。滝の前にはトチノキの巨木があり、神秘的な撮影スポットとして訪れる人も多い。作品は、その滝の前に佇んでマイナスイオンを浴びている若者の姿をとらえた。神々しい滝の姿に魅せられているのだろうか、その後ろ姿が物語っている。スローシャッターで滝の流れを強調したことで滝の存在感が増している。

優秀賞・埼玉県治山林道協会賞

「新緑の里山」

「新緑の里山」

撮影地:秩父市

撮影者:髙澤洋次さん(横瀬町)

急峻な斜面に立ち並ぶ集落の家々と新緑の木々の取り合わせが絶妙である。右下から集落へ伸びる細い道路がアクセントとなり、ここが奥山の集落であることを感じさせる。広葉樹の明るい緑と針葉樹の濃い緑の織りなす狭間に見え隠れする家々の佇まいが、渾然一体となって見る者の心に迫る。

優秀賞・日本製紙賞

「静寂」

「静寂」

撮影地:秩父市

撮影者:佐藤常利さん(皆野町)

晩秋の湖面にシンメトリーに映る山並みを美しく描写している。特筆すべきは、中央に写っている枯れた黄色味を帯びたススキと艶やかに紅葉した樹木の姿を取り入れ、全体が青色を基調としている中にあって変化をつけることでメリハリの効いた画面構成にしていることだ。

優秀賞・AGS賞

「舞踏会」

「舞踏会」

撮影地:秩父市

撮影者:緑川勉さん(秩父市)

撮影の難しいヒメボタルの乱舞を見事にとらえた。ヒメボタルはゲンジボタル、ヘイケボタルより一回り小さく、陸生の巻き貝を餌にする。発光はゲンジ、ヘイケよりも弱いが、発光間隔が短く点滅し黄色味が強い。 開けた川辺ではなく、奥深い森林内に生息することが多いので一般にはなじみの薄いホタルである。薄暗いスギ林とその下草を背景に乱舞する様は、実に幻想的である。長時間露光で撮影しているためホタルの光跡がボリューム感を高めている。

佳作作品

「御神木に守られて」

「御神木に守られて」

撮影地:飯能市

撮影者:浅見彰夫さん(飯能市)

飯能市名栗地区で開催された「丸太雛」イベントの一コマである。近隣の小学生や幼稚園児が地元産の間伐材などを加工して作ったお雛様を8カ所の神社などに飾るというもの。魚眼レンズ効果により、階段に並べられた丸太雛を境内のご神木が守っているかのような雰囲気が面白い。惜しむらくは、お雛様の愛らしい表情がもっと分かるような配慮が欲しかった。

「チョット一休み」

「チョット一休み」

撮影地:飯能市

撮影者:庄司博さん(日高市)

美しく紅葉したカエデを背景にひと休みしているカップルの後ろ姿がなんとも好ましい。どんな会話をしているのだろうか、耳をそばだててみたい欲望に駆られる。逆光がカップルの姿を際立たせ、木の間越しの陽の光が秋たけなわの状況を演出している。構図、露光、シャッターチャンスなど申し分ない。

「造材作業」

「造材作業」

撮影地:飯能市

撮影者:吉田幸子さん(飯能市)

「重機と共に作業するタイミングは抜群でした」とは、撮影者のコメントである。林業の作業現場でのスナップ写真を、たびたび応募してくださる吉田さんの撮影技術には感心させられる。作業現場の選び方、作業員の動きなどを的確にとらえてシャッターを切る技量は、短期間に培えるものではない。作品からは現場作業員の会話が直に伝わってくるかのような臨場感がある。

「春色トンネル」

「春色トンネル」

撮影地:三郷市

撮影者:秋澤真希子さん(三郷市)

八重桜と若葉の広葉樹が織りなすトンネルの中を散歩する親子連れ。いかにも早春の息吹が感じられる作品であるが、「春の若々しい緑の匂いを五感で楽しんでいる様子をセルフタイマーで自撮りした」、とは撮影者のコメントである。全体の構成、シャッターチャンスなど計算し尽くされている。

「カメラはここだよ」

「カメラはここだよ」

撮影地:ときがわ町

撮影者:荻野利夫さん(熊谷市)

ときがわ町にあるどんぐり山のトトロを前にして、幼稚園児の記念写真撮影シーンだが、子供たちは好き勝手な仕草でなかなかカメラの方を向いてくれない。「カメラはここだよ」と、注意を引く声が聞こえてくるかのようだ。子供たちの様子とトトロの対比が微笑ましい。なお、記念写真を撮っている人物を中途半端にせず、きちんと見えるように入れ込んだほうがタイトル通りの作品になるのだが・・・

「隧道の森」

「隧道の森」

撮影地:毛呂山町

撮影者:厚目正さん(毛呂山町)

隧道の入口付近にたたずむ親子連れの様子を撮影した作品だが、親子のシルエットと背景の緑とオレンジ色の対比が強く印象に残る。しかし、「隧道の森」というタイトルからは、親子がなぜ用水路の隧道に立っていて、なぜ傘をさしているのか、などの状況が全く読み取れない。撮影者には、見る人に納得してもらえるようなタイトル付けと撮影内容を心がけて欲しい。

「雪の秩父谷」

「雪の秩父谷」

撮影地:東秩父村

撮影者:栗島光政さん(東秩父村)

撮影者は、雪の日の早朝、近くの峠に出かけて秩父方面を撮影したという。雪が止んで間もないためか、広葉樹の枝々には新雪がまとわりつき、「枯れ木に花」が咲いているような美しい景観を創り出している。遠方には秩父の山々がそびえ、谷あいには雲海が臨め、春を間近に感じさせるような雪景色を上手にまとめ上げた。

「ピクニック日和」

「ピクニック日和」

撮影地:川口市

撮影者:小西直昭さん(川口市)

八重サクラが咲き始め、土手のような小高い場所に複数台の自転車に乗り合わせた家族連れの人々が寄り集っている。逆光を利用して、彼らの様子をシルエットにしてまとめた着想がすばらしい。あたかも影絵の世界に誘われたかのような錯覚に陥る。タイトル名だが、一般的にピクニックは野外で食事を伴う場合を言うことから、「お出かけ日和」とした方が良いのでは。

「循環」

「循環」

撮影地:飯能市

撮影者:渡部遼太郎さん(飯能市)

朽ちゆく大きな倒木とお年寄りを撮影した迫力のあるスナップ写真である。タイトルから写真の何が循環なのかよくわからないので撮影者のコメントを見ると、「祖父と山に出かけ、会話の中で古木が倒れたことで周囲の若木が育ち、倒木が新たな若木の栄養となり森の命が循環するということに気づいた」で、腑に落ちた。タイトルを単に「循環」ではなく、もう少し踏み込んだ内容のタイトルにすると作品の見え方も違ってくると思われる。

「紅葉狩り」

「紅葉狩り」

撮影地:嵐山町

撮影者:藤原正宣さん(加須市)

嵐山町には、景勝地として名を馳せる紅葉の美しい嵐山渓谷がある。作品は、ここ嵐山渓谷で撮影したもの。半分強の空に当たる部分に色づいたカエデを配置し、残り部分の際に白いなったススキの穂を入れ、ほぼ中央にハイカーを入れ込むといった大胆な構図が目を惹く。

「新緑」

「新緑」

撮影地:飯能市

撮影者:下村光男さん(入間市)

目にも爽やかな新緑の広葉樹が林立する尾根筋に、ハイカーが登ってきた。作品からは、二人の動きが軽やかに見え、息づかいまで聞こえるようである。広がりのある森林空間の一隅に動きのある複数の人物を配置し、緑に満ち満ちた世界をうまく表現した。

「ドングリの発芽」

「ドングリの発芽」

撮影地:東秩父村

撮影者:安岡智幸さん(長瀞町)

天然更新による次代を担うドングリの発芽の様子を美しくまとめあげている。被写界深度を浅くしたことで、前後のぼけ足が若芽を包み込むような効果になった。「背景に親木をシルエットに入れ大きく育って欲しい気持ちを込めた」と撮影者のコメントがあったが、もっと大胆に入れた方が強調できたのではないだろうか。